第3章 第2次分権改革の始動に向けて
− 地方税財源充実確保方策についての提言 −
 
T 地方税財源充実確保の基本的視点
 
1 地方税源充実への取組みに関する基本的方向
 (1) 地方税源については、地方分権を更に推進するため、既に第2次勧告等で述べたように、地方の歳出規模と地方税収との乖離の縮小、住民の受益と負担の対応関係の明確化などの観点から、その充実確保を図っていくべきである。

    地方歳出と地方税収の乖離縮小のためには、歳入・歳出両面の見直しが必要であるが、歳入面に関しては、基本的に歳入の質を第一に考え、歳入面での自由度を増し、地方歳入中に占める一般財源、特に地方税収入の割合を高めることで受益と負担の関係を強化することができる。地方公共団体の施策の実施に必要な財源の相当部分は当該地域からの税収で賄い、財政力の弱い地域には一般的な財政調整制度で対応し、個別事業に係る国庫補助負担金は真に必要なものに限るという方向が、望ましい方向である。
 
 (2)  歳入面での自由度を増す観点から、地方税収入の割合を高めていくことは、現在の国・地方を通ずる厳しい財政状況等を踏まえた観点に照らしても、必ずしも地方公共団体の歳入の量自体を増やすことを意味するものではない。国・地方を通じた現在の租税負担率に制度的変更を加えない前提で地方税源の充実を行うためには、国から地方への税源移譲により地方税源の充実を図っていく必要があり、その際には、税源移譲額に相当する国庫補助負担金や地方交付税の額を減額するなどにより、歳入中立を原則とすべきであると考える。
 
 (3)  また、歳入面の見直しと併せて、歳出についても、国の関与の廃止・縮減や法令等による歳出や事務事業の義務付けの見直しを行い歳出の自由度を高めていくことが必要であり、これにより歳入・歳出両面の自由度を併せ増していくことが地方分権の実現にとって不可欠な要素である。
 
2 地方税源充実の理由と考慮すべき事項
 (1)  このように地方の自主財源である地方税源の充実を必要とする背景としては、画一から多様へという流れの中で、自立性を高める方向での制度設計の選択が迫られていることが挙げられる。また、真の意味の地域社会の活性化も、こうした自立性を高める制度改革により促進されることになる。
 
 (2)  わが国は、国・地方を通ずる長期債務残高が平成13年度末で666兆円に達することが見込まれるなど、国・地方ともに極めて厳しい財政環境にあり、財政構造改革の実現が大きな課題となっている。また、わが国の置かれている経済環境を見た場合、右肩上がりの経済成長の終焉、少子高齢化の進行を考えれば、国全体の資源配分という観点からも、新たな国・地方間の財政関係の仕組みの構築が必要とされている。地方税源をより多くすることで、受益と負担の意識が高まり、その結果、国全体の資源配分も適正化されていくものと考えられる。

    行政サービスの受益と負担の関係を明確化するほど、地域で求められる福祉水準をいかに効果的に達成できるかという自治体間の知恵の競争が活発化することになる。また税財政面の自己決定権の拡充及びその発揮により、住民の声が地域の行政サービスのあり方に反映されやすい仕組みができあがることにもなる。
 
 (3)  他方で、障害者福祉、生活保護、義務教育など国がどこまで画一的に基準を定めるべきかという点について見直しの必要性はあるにせよ、そのコストについて社会全体で支えるべき分野もある。また、地域によっては、自主税源だけでは地域の最小限の行政水準さえ賄えない地方公共団体が出ることが予想されるため、地域社会の存立という理念にも配慮し、財政調整制度を活用していく必要がある。
 
 (4)  なお、地方分権時代の行政の主役である地方公共団体の側においても、少子高齢社会を迎える中、合併及び行政改革の推進等により、新しい時代の地方自治の担い手としてふさわしい行政体制を整備することが併せて必要であることはもちろんである。また、地方行財政運営についても更なる厳しさが求められている。
 
3 地方税源の充実と財政構造改革
 (1)  地方財政の急速な悪化は、個々の地方公共団体の財政事情については、個々の地方公共団体の財政運営の取組みによる場合もあるが、地方財政全体としては、国の経済政策の中で、公共事業の拡大や減税に対する協力を求められ、地方公共団体もこれに応じてきたことが主要な要因となっており、他の先進国において、地方公共団体がわが国のような規模で財政赤字と借金を背負っている例はない。
 
 (2)  今回委員会で検討の対象とした地方税財源の確保方策の基本的目的は、地方の収入を増やすことではなく、収入の質の転換を図ることにある。収入の質の転換を図ることにより、住民に身近なところで歳出チェックがより厳しくなることもあって、国・地方を通じての歳出抑制効果が働き、国民全体の負担もむしろ軽減されることになる。したがって、税財源の地方分権は、国・地方を通ずる行財政全体の構造改革にとっても重要な要素であり、むしろ不可欠の手段だといえる。
    その意味で、今後その具体策の検討に当たり、少なくとも地方税源充実の選択肢とそれに対応する留意事項などについて、財政構造改革の議論等との整合性も踏まえつつ、十分に検討しておく必要がある。
 
 (3)  なお、国・地方を通ずる構造的財源不足の解消方策について、今後、財政構造改革の議論の中で検討していく必要があるが、今後21世紀において地方公共団体が果たしていく役割の重要性等に鑑み、地方歳出と地方税収の乖離の縮小、今後の国と地方の役割分担のあり方、財政状況等を踏まえつつ、租税負担率を見直す際には地方税源への配分について特に重視していく必要があると考える。
 
U 地方税源の充実策
 
1 地方税充実確保の方向
 (1)  地方税源充実は、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築していくという方向で考えるべきであり、特に税源移譲に伴う地方財源の偏在を抑制するためにも、地域的偏在の少ない地方税体系構築が必要である。
 
 (2)  この場合、地方公共団体の自己決定、自己責任の拡充及びその発揮を税財政面において適切に担保していくためには、地方税の中でも特に基幹税目の更なる充実が不可欠である。
   地方税の基幹税目の充実に当たっては、個々の税目の充実方策を検討することが必要であり、実際にそれらをどのように組み合わせどのようなタイミングで地方税源充実を図るのかが重要な課題である。
 
 (3)  3300弱の地方公共団体のうち、不交付団体が数えるほどしかないということは、現在の地方自主財源の乏しさを象徴している。地方税源の充実により、地方公共団体の自主税財源比率を高めることは望ましいが、一方でその具体的目標数値を計数的に示していくのは困難でもある。また、不交付団体数の目標設定も困難ではあるが、少なくとも、できるだけ不交付団体の数が増加するような姿が望ましい。
 
 (4)  以上のような観点を踏まえ、地方分権を更に推進するため、個別税目について次のような具体的充実の方向が必要であると考える。
 
  (個人住民税)
    個人住民税については、都道府県、市町村にとっての基幹税目として更なる充実を図るべきである。国・地方の個人所得課税のあり方については、国の所得税が所得再配分機能などを担う基幹税であることに留意しつつ、全体としての個人所得課税の税負担に変更を加えないとの前提の下で、税源移譲により、個人住民税の最低税率を引き上げることにより、個人所得課税に占める個人住民税の割合を相当程度高めていくことが望ましい。その際には個人住民税のより比例的な税率構造の構築と課税ベースの拡大により、広く住民が地域社会のコストを負担する仕組みとすべきである。また、均等割の水準についても、過大な負担とならないよう配慮しつつ、見直しを図る必要がある。
  (地方消費税)
    地方消費税については、今後の消費税のあり方の議論の中で、福祉をはじめとする幅広い財政需要を賄う税として、その位置付けを高め、その充実を基本に検討することが適当である。この場合、地方交付税原資として組み入れられている消費税の一定部分を地方消費税に組み替えることも検討すべきである。
 
  (固定資産税)
    固定資産税については、資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存在する一般的な受益関係に着目して課税されるものであり、応益性という地方税の基本的性格を具現したものであるとともに、市町村財政を支える基幹税目であり、引き続きその安定的確保に努めていくべきである。
 
  (法人事業税)
    法人事業税については、税負担の公平性、税の性格の明確化、基幹税の安定化、経済の活性化等の観点から、外形標準課税の導入が必要であり、昨年11月自治省から提示された具体案は、課税標準として法人の生み出す付加価値を的確に捉え、現在の所得課税に比べ、薄く、広く、公平な課税を図ろうとするものであって、現行の所得課税よりも優れている。今後、これまでの議論を参考にしつつ、外形標準課税の早期導入を図るべきである。
 
  (個別間接税)
    たばこ税などの個別間接税については、偏在が少なく地方税になじむ税源であり、国税からの税源移譲を含め、その充実を図るべきである。
 
  (環境関連税制)
    国・地方を通じた環境関連税制の検討に当たっては、地方公共団体が環境対策面において果たしている役割を踏まえた対応が必要であり、地域的環境問題はもとより、地球環境問題についても、地方公共団体が地球温暖化対策の面でも相当な役割を担っていること、流通・消費段階で課税される場合に、用途に応じた課税措置が可能となること、さらに消費者へのインセンティブ効果が期待されること等の観点から、地方税での対応も考えていくべきである。また、課税自主権の活用により、有効に対応できる分野もあると考えられる。
 
2 課税自主権の尊重と租税原則
 (1)  地方税源の充実・確保のためには、法定税の充実を図るとともに、自主課税の努力が必要である。この自主課税については、法定外税のほか、超過課税などの活用についても幅広く検討していくべきである。

    国・地方を通じ主要な税源は法定税目とされており、課税自主権の発揮のみで地方税源を量的に拡充することには限界もあるが、独自課税については、制度立案の過程で、納税者を含めた関係者の意見を聞き、受益と負担の関係をより意識する議論が行われるという意義も評価すべきである。地域の特色を踏まえた独自税源の充実が、地方公共団体の行政運営に対する住民の参加と関心を呼び起こす契機ともなる側面を考えれば、地方独自税源開拓の意義は大きい。
 
 (2)  自主課税の実施に当たって、対象を法人等に限定して負担を求めるという傾向には留意が必要であり、また、独自課税を検討する場合にも、負担の公平等の租税原則等との関係を十分に踏まえ、納税義務者等に対する十分な説明を行い、理解を得るように努める必要があることは言うまでもない。
 
3 地方税務執行面の機能の充実
  今後の地方税源充実を考えるに当たり、地方税務執行面のサポートを強化するための研修・執行機能の充実についても検討を行っていくべきである。
 
V 地方税源充実に伴い発生する偏在問題
 
 (1) 地方税源の充実を行う場合、地域ごとの税収の偏在は大きな問題となる。歳入中立の前提で税源移譲を行うこととすると、財政力の高い団体に帰属する税収分についてはそれ以外の団体に回る収入が減ることとなる結果、団体によっては、全体としての財源が減るということになる。もちろん個々の団体の増減は、歳入中立の下でも設定条件の置き方次第で異なってくる。
 
 (2)  税源移譲による地方税の増収がある程度地域的に偏在するのは不可避であるが、できるだけ偏在の少ないものとする必要がある。税制面においては、偏在の少ない税目を中心に税源移譲を考えることが重要であり、また法人事業税の外形標準化により税収の偏在が緩和される効果も期待できる。
 
 (3)  また、財源面の格差については、従来の財政調整制度による対応に加え、税源移譲の規模によっては、さらに、新たな財政調整の仕組み、巨大都市の地方税財政制度のあり方などの検討も今後考える必要がある。
 
W 地方税源充実に対応する国庫補助負担金、地方交付税等の改革
 
1 基本的考え方
   税財政面での地方の自己決定権の拡充には、地方税源の充実を図る一方で、地方歳出に対する国の関与や法令等による歳出、事務事業の義務付けの廃止・縮小が必要であり、歳入・歳出の両面での自己決定権の拡充及びその発揮こそが真の意味での地方自治を可能ならしめるといえる。そして、地方税源充実に伴う国の地方への移転的支出の削減に当たっては、まず国の関与の強い特定財源である国庫補助負担金を対象にすべきである。
 
2 国庫補助負担金の改革の方向
 (1)  国庫補助負担金を通じて、これまで、全国くまなくナショナルミニマムの行政水準を浸透させてきた効果は認められる。一方で、国庫補助負担金は、コスト意識の希薄さや責任の所在の不明確さなど様々な問題を発生させており、また、受益と負担の乖離により、中には必ずしも地域の行政需要に合致しないものも行われてきている。
 
 (2)  国庫補助負担金は真に必要なものに限定し、それ以外のものは廃止することを原則とした上で、引き続き当該事務事業の実施が必要な場合には、所要の財源を地方一般財源に振り替えていくべきである。そのうち国庫補助金については、第2次勧告等に沿って整理合理化を行うべきである。国庫負担金については、国と地方の役割分担を整理する中で、対象となる分野の限定、あるいは事業の重点化を図っていく必要があり、大幅な整理も視野に入れるべきである。
    国庫補助負担金の内容の改善として、包括交付金化、統合補助金の大幅拡充などについても広く検討すべきである。
 
 (3)  国庫補助負担金の抜本的な整理合理化により、各種補助金関連業務の縮減、簡素化等が図られ、国・地方を通じた行政のスリム化にも大きな効果をもたらすことが想定される。
 
3 地方交付税の改革の方向
 (1)  税源移譲による歳入中立の前提の下での地方税の充実に伴い、地方交付税の総額は減少することが見込まれるが、地域間の税源の偏在により、財政力の格差が拡大する可能性があることから、財政力の格差を是正するという地方交付税制度の役割は依然として重要であると考えられる。
 
 (2)  これまで地方交付税は、国で定めた一定水準の行政サービスを国民が全国どこで生活しても享受できるようにし、その結果として地域社会の存立基盤を守ってきた。
    その一方で、行政サービスと自己負担の間の緊張関係が損なわれ、地方歳出の拡大を招いているのではないかとの指摘がなされ、地方交付税を大きく縮小すべき、あるいは現行の地方交付税制度による財政調整は手厚すぎるものとなっているので、人口一人当たりの税収格差の是正のレベルに留めるべきではないかとの指摘が行われている。
    これらの指摘に関しては、地方交付税の主要な機能は、国が法令や予算により定めた政策を財源的に担保することであり、この財政需要は必ずしも人口比例ではない以上、一人当たりの税収格差是正では不十分であるという問題がある。このため、地方交付税の総量の縮小や配分基準の簡素化の議論は、法令による歳出や事務事業の義務付け、補助負担金等による国の関与の廃止・縮小と一体として検討していかなければならない。
 
 (3)  このような観点を踏まえ、社会経済情勢の変化に対応して、地方交付税の算定については、次のような見直しが必要であると考えられる。
  ・ 国による歳出や事務事業の義務付けの廃止・緩和を進めるとともに、地域の実情に即した地方公共団体の自主的・主体的な財政運営に資する方向で、基準財政需要額の算定方法のあり方の検討を行い、その一層の簡素化等の見直しを図るべきである。
  ・ 事業費補正による算定については、対象となる事業の範囲を見直し、特に必要なものに重点化していくべきである。
  ・ 行政運営の効率化・合理化の要請を的確に反映するよう見直しを図るべきである。
  ・ 地方の課税努力、税源涵養努力、独自税源充実の自助努力を更に促すような仕組みの検討を行うべきである。
 
 (4)  また、地方交付税について、国の一般会計を通すことなく、国税収納整理資金から地方交付税特別会計に繰り入れる措置については、国の一般会計において主要税目の状況を一覧性ある形で示す必要がある等の観点から問題があるとの意見もあるが、地方の固有財源としての地方交付税の性格を明確化するために、この際検討を行うべきである。
 
4 地方債資金の円滑な調達
   地方税源の充実確保によるこれからの税財政面での地方の自己決定権の拡充に伴い、地方公共団体が資金を安定的・円滑に調達できるよう、地方債の共同発行機関の重要性が増していくものと考えられるので、その問題についての検討が今後必要であると考えられる。
 
X 今後の検討に当たって
   地方税源の充実策については、現実的には、国・地方を通ずる財政構造改革の際に実施することになるものとも考えられるが、既に述べたとおり、少なくとも地方税源充実の選択肢とこれに対応する留意事項などについて、財政構造改革の議論等との整合性も踏まえつつ、十分に検討しておく必要がある。そしてその際には、国と地方の事務配分のあり方、国による地方への歳出や事務事業の義務付けのあり方も含めた地方行財政制度全般について、画一から多様へという時代の流れを踏まえつつ、地方分権推進の視点に立った具体的かつ専門的な検討を行う場が必要である。

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