は じ め に
 
 地方分権推進委員会(以下、「委員会」という。)は、5年間の時限法である地方分権推進法(平成7年法律第96号)に基づいて平成7年7月3日に設置された。したがって本来であれば、委員会は、平成12年7月2日にその任期を終了し、すでに解散しているはずであった。
 
 しかしながら、この平成12年の任期切れを目前にして、国会は、内閣の提出した地方分権推進法の時限を1年間延長する旨の同法改正法案を可決した。委員会は委員会延長後の平成12年8月、監視活動に基づいてそれまでに準備していた「地方分権推進委員会意見−分権型社会の創造−」(平成12年8月8日)を提出したが、その際、内閣総理大臣から委員会に対して、改めて地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号。以下、「地方分権推進一括法」という。)に基づく施策の実施状況等の監視活動を続けるとともに、市町村合併の更なる推進方策と地方税財源の充実確保方策など残されている検討課題について引き続き調査審議することを要請された。このうちまず、市町村合併の更なる推進方策について重点的に調査審議し、その結論を「市町村合併の推進についての意見−分権型社会の創造−」(平成12年11月27日)として内閣総理大臣に提出したところである。
 
 以来今日に至るまでの約半年間、委員会は一方では地方分権推進一括法に基づく施策の実施状況等の監視活動を続行するとともに、他方ではこれと並行して地方税財源の充実確保方策に関する密度の濃い調査審議を行ってきた。これらの監視活動及び地方税財源の充実確保方策の調査審議の一環として広く地方公共団体関係者の意見を聴取するため、岩手・滋賀の両県で一日地方分権委員会を開催した。また、特に地方税財源の充実確保方策の調査審議においては、関係省庁のほか総計25名の有識者・関係団体の方々を招き、広く各界から多角的な意見を聴取してきた。
 
 その結果、これらの課題について一応の結論を得たので、ここに委員会の最終報告を取りまとめ、これを内閣総理大臣に提出するものである。
 
 以下、まず第1章では、発足以来通算6年間に及ぶ委員会の活動について回顧し、委員会の所感を開陳している。ついで第2章では、上記の「地方分権推進委員会意見−分権型社会の創造−」(平成12年8月8日)提出以降の監視活動の結果について報告するとともに、若干の事項について内閣に善処を要請している。続く第3章では、地方税財源の充実確保方策についての委員会の提言を盛り込んでいる。そして最後の第4章では、分権改革の更なる飛躍を期待し、国民的な議論の展開を促す趣旨で、分権改革の残された諸課題について委員会の所見を述べている。
 
第1章 第1次分権改革を回顧して
 
T 分権改革の理念・目的
 
 委員会は、内閣総理大臣に提出した最初の文書である「中間報告−分権型社会の創造−」(平成8年3月29日。以下、「中間報告」という。)の第1章の「はじめに」の中で、次のように述べた。
 
 この変革はわが国の政治・行政の基本構造をその大元から変革しようとするものであり、その波及効果は深く、広い。それは明治維新・戦後改革に次ぐ「第三の改革」というべきものの一環であって、数多くの関係法令の改正を要する世紀転換期の大事業である。したがって、それは一朝一夕に成し得る性格のものではない。相互に複雑に絡まり合っている諸制度の縫い目を一つ一つ慎重に解きほぐし、システムの変革に伴いがちな摩擦と苦痛の発生を最小限度に抑えながら、諸制度を新たなデザインに基づいて順序よく縫い直して、その装いを新たにしていくべき事業である。
 
 この当初の課題認識は、通算6年間に及ぶ活動の幕を閉じようとしている現時点に立って考えても、的確なものであったと確信している。予期したとおり、分権改革は一朝一夕に成し得るものではなかった。委員会としては、現状において達成可能な最大限の改革を成し遂げたと自負しているところであるが、委員会が掲げてきた分権改革の究極目標に照らしてみれば、なお数多くの諸課題が将来の改革に託されている。
 来し方を回顧してみれば、明治21年に制定された市制町村制以来存続してきた機関委任事務制度を全面廃止した改革作業は、相互に複雑に絡まり合っている諸制度の縫い目を一つ一つ慎重に解きほぐし、諸制度を新たなデザインに基づいて順序よく縫い直していく性格のものであった。今後の行く末を展望するならば、地方税財源の充実確保方策を中核とする次の段階の分権改革の作業も、国の財政構造改革との関連においてこれまでの作業と同様の高度の複雑さを備え、同様の慎重な手順にしたがって実施すべき性格のものである。
 
 では、分権改革はなぜこの時期に国政上の最重要課題として浮上したのか。この点については、同中間報告において、委員会が今次の分権改革を求められた社会的な背景・理由は、旧来の中央集権型行政システムが、変動する国際社会への対応、東京一極集中の是正、個性豊かな地域社会の形成、高齢社会・少子化社会への対応などの新しい時代の諸課題に迅速・的確に対応する能力を失ってきているところにあるとする認識を示した。
 そこで、従来の中央省庁主導の縦割りの画一行政システムを住民主導の個性的で総合的な行政システムに切り替えること、「画一から多様へ」という時代の大きな流れに的確に対応することを今次の分権改革の基本目標に設定した。国、都道府県及び市区町村相互の関係を従来の上下・主従の関係から新たな対等・協力の関係に変えていくこと、さらにこれをとおして地域社会の自己決定・自己責任の自由の領域を徐々に拡大していくことこそ、委員会に課せられた主要な任務であると考えたところである。
 
U 分権改革の方針・手法
 
 この中間報告を提出したのち、委員会の作業はいよいよ地方分権推進法の規定に基づく勧告に向けた調査審議に移行したが、委員会はこの任務を遂行するに当たって、「現実的で実行可能な、着実な改革」を目指すことをその基本方針とした。
 その結果採用された調査審議の具体的な手法が、地方公共団体の総意として地方六団体から数次にわたって提出された改革要望事項を調査審議の土台とすること、そしてまた地域づくり、くらしづくりの両部会に加え、行政関係検討グループ、補助金・税財源検討グループ、地方行政体制等検討グループを設置し、これら3検討グループの委員・専門委員・参与が個別の検討事項ごとに関係省庁の幹部職員とインフォーマルな小会議方式で率直に意見を交換するグループ・ヒアリング方式などであった。
 結果から見れば、この基本方針と調査審議の手法には功罪両面があったと認めざるを得ない。まず、マイナスの側面から言えば、調査審議事項の範囲が地方公共団体の総意として提出された改革要望事項に限定されがちであったこと、勧告事項が関係省庁と合意に達した事項に限られたこと、グループ・ヒアリングの場での実質的な意見交換に関する情報が非公開とされたことなどである。しかしながら、その反面、委員会の5次にわたる勧告に盛り込まれた事項は、政府によって文字どおり最大限尊重され、地方分権推進計画および第2次地方分権推進計画に着実に盛り込まれた。しかも、このうちの第4次勧告までの4次にわたる勧告に対応する地方分権推進計画の記載事項は、その後さらに総計 475本の関係法律を一括して改正する地方分権推進一括法として法制化され、平成12年4月1日から施行されている。この種の行政改革に係る諮問機関の成果として、これは異例ともいえる成功例であったと確信している。
 この功罪両面をどのように評価するかは歴史の審判に委ねるほかないが、委員会がこのような基本方針と調査審議の手法を採用せざるを得なかった最大の理由は、委員会に対し地方分権推進計画の作成に資する「具体的な指針」の勧告を求めると同時に、政府に対しては委員会の「勧告を尊重する義務」を課していたところの、地方分権推進法に定められた改革推進の仕組みそのものにあったと考える。
 
V 分権改革の主要な成果
 
 上記のような改革の方針・手法が採用された結果として、今次の分権改革の成果にどのような影響が生じたのか。
 地方自治を拡充する方策には、団体自治の拡充方策と住民自治の拡充方策とがある。
 
 ここでいう団体自治の拡充方策とは、国、都道府県及び市区町村相互の関係を改善して地方公共団体による自己決定・自己責任の自由の領域を拡充する方策であり、住民自治の拡充方策とは、地域住民と地方議会・首長など地域住民の代表機関との関係を改善して地域住民による自己決定・自己責任の自由の領域を拡充する方策である。
 
 また、このうちの前者の団体自治の拡充方策には、事務事業の移譲方策と広い意味での関与の縮小廃止方策とがある。
 
 ここでいう事務事業の移譲方策とは、国の事務事業の一部の地方公共団体への移譲、または都道府県の事務事業の一部の市区町村への移譲を進めることによって、地方公共団体が所管する事務事業の範囲を拡充する方策であり、広い意味での関与の縮小廃止方策とは、地方公共団体が所管している事務事業の執行方法や執行体制に対する国による義務付け、枠付け、種々の関与などを、または市区町村が所管している事務事業の執行方法や執行体制に対する都道府県による枠付け、種々の関与などを縮小廃止することによって事務事業の執行方法や執行体制を地方公共団体の判断と責任において自由に取捨選択することのできる裁量領域を拡充する方策である。
 
 今次の分権改革では、まず団体自治の拡充方策に取り組むとともに、事務事業の移譲方策よりも広い意味での関与の縮小廃止方策に改革の主眼が置かれる結果になった。
 なかでも通達等による関与の縮小廃止、機関・職員・資格などにかかわる必置規制の緩和廃止、補助事業の整理縮小と補助要綱・補助要領による補助条件の緩和の3点については、きわめて具体的な改革が実現されたところである。
 特に、これらのうち通達等による関与を縮小廃止するための基本方策として、住民による選挙で選ばれた知事や市町村長を国の下部機関とみて、国の事務を委任し執行させる仕組みである機関委任事務制度が全面廃止されたことのもつ意義は、きわめて大きい。従前の機関委任事務のうち、ごく例外的にこの機会に事務そのものを廃止したものや国の直接執行事務としたものを除いて、その他の従前の機関委任事務はすべて、自治事務か法定受託事務のいずれかに振り分けられたが、自治事務はもとより法定受託事務もまた「地方公共団体の事務」であることが明確にされた。そこで、平成12年度以降は、地方公共団体には、「国の事務」は皆無となった。
 しかも、この機会に廃止された通達等やこの機会に法定受託事務の処理基準に改定された通達等を除いて、その他の従前の通達等はこれ以降すべて、その性格が「技術的な助言」に改められたので、地方公共団体はこれらの通達等に拘束される必要はなくなった。これによって、地方公共団体の法令解釈権は大幅に拡大されることになった。
 これに加え、国と地方公共団体の関係や都道府県と市区町村の関係を公正で透明なものにするために、地方分権推進一括法による改正後の新地方自治法には、関与の標準類型が定められると同時に、行政手続法に定められた行政手続に類似した関与の手続ルールが定められた。さらに、国と地方公共団体の関係や都道府県と市区町村の関係がもはやかつてのような上下・主従の関係でないことを明確にするために、処分その他公権力の行使に当たる関与の合法性をめぐってこれらの団体間に係争が発生したときには、どちらの側の法令解釈が妥当かを、最終的には訴訟で争い得る道を開いているのである。
 
W 未完の分権改革
 
 しかしながら、今次の分権改革の成果は、これを登山にたとえれば、まだようやくベース・キャンプを設営した段階に到達したにすぎないのである。委員会が中間報告以来掲げ続けてきた「分権型社会の創造」という究極目標に照らしてみれば、改革の前途の道筋は遼遠である。言い換えれば、今次の分権改革は第1次分権改革と呼ぶべきものであって、分権改革を完遂するためには、これに続いて第2次、第3次の分権改革を断行しなければならない。
 
 では、次なる第2次分権改革の焦点はどこに当てられるべきなのであろうか。第1次分権改革の成果に対する地方公共団体関係者の評価から見ても、また地方分権推進一括法の国会審議に際して衆参両院でなされた附帯決議等から見ても、次の段階の改革の焦点は、地方税財源の充実確保方策とこれを実現するために必要な関連諸方策であると思われる。内閣総理大臣が、委員会に対して、地方税財源の充実確保方策を特に指定して引き続き検討するよう要請したのも、我々と共通の認識に立つものであったと了解している。
 そこで、ここでは、この地方税財源問題をめぐるこれまでの経緯と委員会の基本姿勢について簡潔に言及するとともに、地方公共団体の関係者及び住民に対し、現状に関しての正確な認識と自治能力の実証と向上に向けた一層の努力を訴えるにとどめ、残された数多くの改革課題に関する委員会の所見については最後の第4章に譲ることとしたい。
 
X 地方税財源問題の経緯と委員会の基本姿勢
 
 委員会は、既に第2次勧告(平成9年7月8日)の第4章において、地方税財源の充実確保に係る基本的な方向を示している。すなわち、地方公共団体に事務・権限の新設または委譲が行われた場合にはこれに伴い所要の財源措置が講じられるべきこと、国庫補助金については一定期間各年度の削減率を定めた削減計画を策定すべきこと、国庫補助負担金の廃止・縮減を行っても引き続き当該事務の実施が必要な場合には地方税等の地方一般財源の確保を図るべきこと、また地方公共団体の歳出規模と地方税収入の乖離を縮小するために地方税の充実確保を図るべきことである。さらに今後は、地方公共団体の財政面における自己決定・自己責任の拡充や地域住民の受益と負担の対応関係の明確化の観点から、国と地方公共団体との役割分担を踏まえつつ、中長期的に、国と地方の税源配分のあり方についても検討し、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築していく必要があることなどを勧告した。
 
 しかしながら、地方公共団体への事務・権限の委譲が小規模にとどまったこと、政府の「財政構造改革の推進について」(平成9年6月3日閣議決定)に基づく国庫補助金の削減が期待に反して小規模なものにとどまったことなどの結果として、この後今日に至るまで、目に見えるような規模での地方税財源の充実は行われていない。
 むしろ地方税収入は、景気の低迷により減少した。また国の景気回復政策として、国・地方を通ずる減税措置が講じられた。さらに景気の浮揚を図るため公共事業が拡大され、地方公共団体も協力を求められ、これに応じてきたために、国の財政と同様、地方公共団体の財政は、その深刻さの度合いを深める一方であった。
 その後、政府の税制調査会においても地方税財源の充実確保について審議がなされ、同調査会の中期答申(平成12年7月)においては、具体的な税目について充実の方向を示しつつ、具体的取組みの時期については財政構造改革の論議の一環として取り組むのが適当としている。
 他方、この間に、市町村の自主的な合併を推進しようとする努力が全国各地で続けられてきており、地方分権時代の行政の主役である市町村においては、引き続き、自主的な合併の推進により、新しい時代の担い手としてふさわしい行政体制の整備に努めることが強く期待される。しかしながら、市町村関係者たちのなかには、分権型社会における地方財政の将来像が依然として不透明な現状の下では、合併の是非を決断しがたいとする声が少なくないのも事実であり、市町村の自主的な合併を積極的に推進するためにも、地方財政の将来像をめぐる具体的論議をできるだけ早期に始める必要がある。
 
 そこで委員会は、先の第2次勧告以降の種々の状況の変化を踏まえ、第2次勧告のときとはアプローチの仕方を変え、今回は国庫補助負担金の廃止・削減という切り口からではなく、国と地方の税源配分のあり方の改革とこれに伴う国庫補助負担金・地方交付税のあり方の改革という切り口から地方税財源の充実確保方策について再検討してみることにした。しかし、アプローチの仕方こそ変えているが、地方公共団体の税制面の自己決定・自己責任の拡充や地域住民の受益と負担の関係の明確化の観点から地方公共団体の歳出規模と地方税収入の乖離の縮小をめざすという委員会の目的意識は、第2次勧告以来一貫して変わっていない。
 
 地方税財源問題についての1年弱の調査審議に基づく委員会の提言については第3章に譲るが、あらかじめここで、この提言に当たっての委員会の基本姿勢について明らかにしておきたい。
 まず第1に、地方分権の推進を専らの任務としている委員会としては、また国・地方を通ずる財政構造改革という極めて複雑かつ総合的な課題について多角的に調査審議する権能を十分には持ち合わせていない委員会としては、国と地方を通ずる増減税の要否及び是非について発言することは差し控えなければならない。それ故に、委員会としては、国と地方を通じて国民の租税負担率に制度的変更を加えないとの仮定に基づき歳入中立を前提とし、地方税財源の充実確保方策を再検討することにした。
 そこで第2に、委員会がこのたび第3章で提言している地方税財源の充実確保方策は、地方公共団体の歳入・歳出総額の増額を目的としたものではなく、その歳入の構造を変え、その質の転換を図り、地方公共団体の財政面の自由度を高めることを目的としている。いいかえれば、第1次分権改革で提起した自己決定・自己責任の原理を行政面のみならず財政面の領域にまで推し広げていくことこそが目的である。
 しかしながら第3に、この提言は、委員会の任務である地方分権の推進を図るという観点から構想したものではあるが、委員会としては、国と地方公共団体の関係の構造を改革することなしに国と地方を通ずる財政再建はあり得ないと認識している。この提言は、国と地方を通ずる財政構造改革の難しさを十分に念頭におきながらもわれわれなりに衆知を結集したものであり、国と地方を通ずる財政再建に矛盾するどころか、むしろこれに寄与する最善の方策であると信じるものである。これが財政構造改革に向けた議論に一つの道筋をつけることになれば幸いである。
 
Y 地方公共団体の関係者及び住民への訴え
 
 委員会は、中間報告の「まえがき」の末尾で、次のように訴えた。
 
 全国3,200有余の地方公共団体は、国への「従属と依存の意識」を克服し、これまで以上に行政の公正性と透明性の向上、住民参画の拡大に努めるとともに、新たな分権型社会の創造をめざして、創意工夫に満ちた地域づくりとくらしづくりの個性的な構想を積極的に提示してほしい。そして、国の関係省庁においては、地方分権推進法制定の趣旨に鑑み、時代の流れを先取りして、この機会に地方公共団体に対する「指揮監督と保護後見の意識」を払拭し、国と地方公共団体の間に対等・協力の新しい関係を構築するという建設的な方向に、その広い視野と深い識見を生かしてほしい。
 
 委員会の任期を終了するこの機会に、地方公共団体の関係者、更にはその住民に改めて強く訴えておきたいことが5点ある。
 まず第1に、地方公共団体関係者の意識改革を徹底して、第1次分権改革の成果を最大限に活用し、地方公共団体の自治能力を実証してみせてほしい。特に、これまでの通達等は、かつては訓令であったものも含めてすべて、その性格を「技術的な助言」に一変させられているのであるから、この機会にこれまで通達等に専ら依存してきた事務事業の執行方法や執行体制をすべての分野にわたって総点検し、これらを地域社会の諸条件によりよく適合し、地域住民に対する行政サービスの質を向上させ得るような別途の執行方法や執行体制に改める余地がないものかどうか、真剣に再検討してほしい。
 第2に、地域住民による自己決定・自己責任の原理を貫徹していくことは、この国の旧来の中央地方関係の構造をその大元から改革することを意味しているのであって、それは、国の側のみならず、地方公共団体の側にも少なからぬ痛みを伴わざるを得ない事柄である。無論、構造改革を推進するに当たってはこの種の苦痛の発生を最小限度に抑えるべく最大限の配慮がなされるべきことは当然であるが、この痛みを皆無にする方策などあり得ない。それは、この国のかたちを再構築し、われわれの社会を再活性化していく道筋において、関係当事者のそれぞれが受忍しなければならない苦痛である。地方公共団体関係者はこのことに深く思いを致し、自己決定・自己責任の覚悟を新たにして、中央地方関係の構造改革の推進に先導的に取り組んでほしい。
 さらに第3に、分権改革の推進とは別途に、しかし不幸にしてこれと時を同じくして、国と地方公共団体の財政の危機的状況はその深刻さの度合いを深めてきている。したがって、地方公共団体の財政状況はこれから更に年を追うごとにその厳しさを増すものと見込まざるを得ない。国に救済を求めてみても、国にはもはやこれに応える余裕がないのである。したがって、かかる事態に立ち至ったことを慨嘆するのではなく、むしろこれを構造改革を推進する好機ととらえ直してほしい。地方公共団体はこの機会に、国への依存心を払拭し、自己責任・自己決定の時代にふさわしい自治の道を真剣に模索してほしい。そのためには、国に向けていた目を地域住民に向け直し、地方自治の運営の透明性を高め、地域住民に対する説明責任を果たしつつ、行政サービスの取捨選択の方途を地域住民に問いかけ、その判断に基づいて、歳出の徹底した削減を図るという地道な努力の積み重ねが必要である。とりわけ住民に身近な基礎的な地方公共団体である市町村における自主的な合併の推進は、こうした努力を結実させるための有力な選択肢であることを認識してほしい。
 第4に、男女共同参画社会の実現に向けた更なる自覚的な努力を強く要望しておきたい。日本国憲法に謳われた「両性の平等」の原理は戦後50年の歳月を経て、ここにきてようやく開花し始めてきた観があり、また男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号。)は、その前文で「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け」、第9条では「地方公共団体の責務」を明記している。旧来の性別役割分担の意識と生活習慣を克服し、伝統的な社会慣行を改めつつ、男女が共に地域社会を支え発展させていく営みに力を合わせていく必要性はますます高まっている。しかるに、地方議会議員に占める女性の比率は、徐々に上昇してきているとはいえ、いまだに国会議員のそれにさえ及ばない。更に多くの女性が地方公共団体の政策決定過程に直接関与し参画するようになることが望まれる。男女共同参画の実現なしに、分権型社会の創造は完成しないというべきである。
 最後に、地方公共団体の男女を問わずすべての住民に対して訴えておきたいことがある。地方自治とは、元来、自分たちの地域を自分たちで治めることである。地域住民には、これまで以上に、地方公共団体の政策決定過程に積極的に参画し自分たちの意向を的確に反映させようとする主体的な姿勢が望まれる。また地方税の納税者として、地方公共団体の行政サービスの是非を受益と負担の均衡という観点から総合的に評価し、これを厳しく取捨選択する姿勢が期待される。自己決定・自己責任の原理に基づく分権型社会を創造していくためには、住民みずからの公共心の覚醒が求められるのである。そしてまた当面する少子高齢社会の諸課題に的確に対応していくためにも、行政の総合化を促進し、公私協働の仕組みを構築していくことが強く求められている。公共サービスの提供をあげて地方公共団体による行政サービスに依存する姿勢を改め、コミュニティで担い得るものはコミュニティが、NPOで担い得るものはNPOが担い、地方公共団体の関係者と住民が協働して本来の「公共社会」を創造してほしい。

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