この「議事録概要」は自治日報紙(平成11年7月16日号)に掲載されたものです。
なお、この「議事録概要」全文を他のメディアに転載する場合は、自治日報社に事前に連絡してください。
 
【中央公聴会】(6月7日衆議院行政改革特別委員会)
高島委員長 分権一括法案等について公聴会を行う。
西尾勝氏(国際基督教大教授) 機関委任事務の廃止を含む第一次勧告の最大限尊重の閣議決定以降、同制度にかわる新しい制度設計を勧告したが、(勧告の文章は)そのまま法律上の文章に採用できるほど厳密な検討を加えたものではなく、法案上の表現が変わることは始めから覚悟していた。法定受託事務の定義の変遷など国会審議で論議の対象となっている点は、それぞれ正当な理由があって修正されたもので、勧告の趣旨をゆがめるものではないと理解している。自治事務・法定受託事務の振り分け作業も、外部からは関係省庁の頑強な抵抗に直面し譲歩を強いられたとみえるかもしれないが、正しい見方ではない。最後は双方が完全に納得し合意に達している。法定受託事務の割合が多すぎるとの批判もあるが、国の手足事務・国への経由事務が予想以上に多かったためだ。
機関委任事務制度廃止に伴う新制度は相互に密接に関連、一部だけを取り出し修正すると全体の大系が不調和になる。例えば、自治事務に対する是正要求で必要な措置を講じる義務を規定しているが、新たに国地方係争処理制度を創設していることと密接に関連している。また、地方事務官も国と自治体の役割分担を明確化する観点に立って提言したもので、地方分権と矛盾するものではないと確信している。
一日も早く成立させてほしい。もちろん、今回の分権改革は万全ではなく、今後さらに改革すべき事項も多いが、改革は一日にして成らず。課題を一つ一つ解決し、次の課題に向かうのが賢明な方策と考える。
恒松制治氏(元獨協大学長) 機関委任事務が廃止され、法定受託事務が導入された。自治体を国の機関と考えることの誤りを是正した点は評価するが、国が本来果たすべき役割を地方団体に行わせるシステムは変わっていない。国の果たすべき役割は国自身がやった方が責任の所在がはっきりしていい。また、自治事務に対する是正の要求措置が多い。地域住民の責任で実施すべきことに国が関与する制度が残ると、中央集権的な仕組みを残し地方自治確立にほど遠い感じがする。議会の定数・運営は条例で定めるのが本来だが、これを法律で定めるのが今回の法律だ。自治体を信じるか信じないかは住民自身が決めることで、中央政府が決めることではない。また、都道府県を自治体と定義づけるなら、どう位置づけるか明確にすべきだ。
地方分権は、中央の権限を自治体に移すことに重点が置かれているが、大切なことは権限の量の大小ではない。たとえ権限が少なくても、その行政の自主性が尊重される方がより大切だ。時間をかけて国民の納得が得られるよう審議してほしい。
井下田猛氏(姫路獨協大教授) 一括法の立法形式で法律改正が一挙に四七五本に及ぶ。拙速主義と思われる。分権改革は集権と画一を排し市民レベルによる自主裁量権と自己決定の原則が保障できるシステムをつくることだが、一括法案では、中央省庁の機能純化が不十分であり中央集権は依然健在と指摘せざるを得ない。法定受託事務は五割近くあり、法定受託事務では代執行がとられる。措置要求や事前協議も問題が潜在している。加えて、国と地方を通ずる税財源に踏み込んだものが少なく、歳入の自治と歳出の自治は、ほぼ手つかずのまま推移している。
自治事務に対する是正要求に改善義務が付されていることは、地域の自己決定よりも国の判断を優先させている。現行法にも是正措置要求の制度はあるが、改善義務は課されていないし、総理大臣のみに認められている権限だ。これを各大臣にまで拡大し、改善義務を課しているのは後退といえる。地方事務官を廃止し、通常の国家公務員とするのは、国民や市民の利便性や効率性の観点から問題が残る。都道府県が国と並んで市町村に対する関与機関となっている部分もどうかなと思う。
池上洋通氏(自治体問題研究所常務理事) 四七五本の法律を一括法案でまとめることに疑問を持つ。現行法(自治法)の第二条のいわゆる事務の例示をなくすと、自治体は何をするのか分からなくなるとの懸念を持つ。法定受託事務の定義だが、(改正案では)最終的に国に責任があるのか自治体にあるのかあいまいで、将来、法定受託事務の財源負担をだれがするのかの問題にかかわる。また、(勧告・計画の文言のように)国民の利便性・事務処理の効率性から法定受託事務が必要との説明の方が本来の姿ではないか。議員定数も自治体が自由に決めるべきだ。憲法の下での平等を欠くことが心配なら、法規定は最低限数を決めるべきだ。国の関与だが、自治事務に対する是正の要求、自治事務にすべての関与ができる、さらに各大臣が自由に関与できる。場合によっては、現行法より強い国の支配が生まれかねない。
係争処理の前置主義も疑問だ。また、政府と自治体の争いを処理する委員会の委員を自治大臣が決めるのはいかがなものか。市町村合併だが、高齢社会の中で地域社会が活性化する一つの基本は、高齢者が外出できる範囲で行政が働けるかどうかにある。行政の単位を広域化すると、高齢者は行政に参加できなくなる。
今後、住民投票、税財政制度について全面的な議論をしてほしい。
小野寺五典氏(自民) 機関委任事務廃止で法定受託事務が増えたこと、(自治事務の是正要求で)改善義務が生じる必要性について、具体例があれば。
西尾氏 委員会が記者レクで自治事務が八割、法定受託事務が二割に納まると述べたが、端的に言うと委員会の見込み違いということに尽きる。軽率だった。経由事務的な細々としたものが件数として膨大だったためだが、結論として、法定受託事務が多すぎるとは思っていない。事務の性質に従った分類ができ、理屈は立っていると考える。総理大臣による是正措置要求の法的効果について、私は、地方団体は従う義務があると解釈されてきたと考えている。関与の基本類型の中に、技術的助言、次に勧告、それから特定の場合の指示があり、是正の要求となる。是正の要求は勧告より一段と強い求めであり、それに従う一段と強い義務が地方団体に生じることを当然の前提に設計した。したがって、是正の要求について、国地方係争処理委員会の係争対象となる、司法審査にまで行きうる話だ。政府では、法制的検討の結果、ああいう表現をとる決断をしたわけだが、こういうことを明確にしておかないと、今度は訴訟に行くときに、その取消しを求めるのだとの理屈が立たない。
小野寺氏 国庫補助負担金の整理合理化が今後、検討が必要とのことだが。
西尾氏 今後の地方税財源の充実確保には二つの方策がある。一番目は、負担金と奨励的補助金を区分して整理合理化、そこから浮いてくる国の財源を地方一般財源に切り換えること。第二は、現在の制度を前提に国と地方団体間の財源配分比率が妥当かという点だ。来年度以降、介護保険行政が始まるが、政府の推計以上の費用が市町村にかかると思っており、地方団体が現在の財源でやっていけるか、早晩大問題として起こってくるのではないか。そのとき、地方の財政需要をきちんと精査し直し税財源の配分を考え直すべきではないか。
恒松氏 地方団体のやる分野、分担する分野は少し大き過ぎるという判断も考えてもいい。税金の配分が三五%だったら三五%の行政事務量をやればいいではないか。どれだけの権限をもつかということより、その権限をどれだけ自主性をもって運営できるか、そういう点で財源問題を考え直してみる必要がある。
三沢淳氏(自由) 国が果たすべき役割を明確化し身近な行政は地方団体に委ねることは、どんな社会を目指すことになるのか。地方分権が国民に与える影響は。
西尾氏 例えば、外交は国の役割だが、地方団体が展開する国際交流と国が担当する外交の境目はどこにあるのか、防衛も基地等をどこに置くかは地方団体が無関心でいられる問題ではない。どこまでが国、どこからが地方団体の話か線引きは難しさがある。したがって、私どもは、むしろ下から積み上げ方法で、地方団体がここを変えてほしい、ここは都道府県・市町村に任せてほしいと言ってきたことを順次関係者と交渉して解決する方法をとった。
地方団体に役割を担わせて、どういう社会をつくろうとしているのかだが、分権委員会の言葉で言えば、地域住民による自己決定、自己責任の地域社会をつくり上げることに尽きる。例えば、学校教育行政では、小中学校の学期を決定する権限が市町村教育委員会におりる。就学校の指定弾力化、学校管理規則の制定柔軟化も言っている。これまで自分たちで決められなかったことに、決められる余地が出てくる。そうなると、地域住民の、ぜひこうしてほしいという声が今まで以上に地方団体に寄せられる。そうした多様な住民の声を地方団体がまとめ、わが自治体はこうしていくと決断していくかどうかが、これからの地方団体の課題だ。
今回の改革の焦点が、国の関与縮小に重点が置かれたことが(住民に)分かりにくくしている原因ではないか。これが事務権限の移譲、例えば、国が担当していた仕事が県庁で、あるいは市役所が担当するように変わるなら、どこの窓口へ行くべきかが変わるわけで仕事の変化を痛感する。
市町村は国や都道府県から様々な拘束を受け自由がない。そこを緩めて、都道府県・市町村の自由を増やそうとしているわけだから、まず都道府県の議会、知事、職員が今度の改革の意味を理解し、与えられた自由をこれからどう行使するか真剣に考えねばならない。この与えられた自由を使いだしたとき、住民は今度の分権改革が何であったか初めて分かる。
したがって、この改革の意味を正確に読み取り、積極的にこれを使って自治をやろうとする先進的な自治体が、まず取組み始めるだろう。それが全市町村に及び、それを活用するようになるには、恐らく一〇年ぐらいかかるのではないか。
三沢氏 現行の交付税制度は自治体の経営努力の障害となっている。全国一律の補助金が地方の個性を失わせている。党では補助金を一括交付する案を出しているが。
恒松氏 交付税があるためムダが増えているというのは特異な例であり、交付税は地方団体の自主的な行政サービスを実施する場合に極めて有効なものだ。問題は、交付税制度という立派な制度がありながら、その運用面で地方団体にとって十分な意識を植えつける運用がされてこなかった、と理解している。
岩國哲人氏(民主) 自治体には主体性を持とうという意欲があるのか疑問というが、どんな点で主体性が欠けているか。
恒松氏 特に町村の助役とか幹部職員に、都道府県の職員をよこしてくれという意見が非常に強い。なぜそう言うかというと、補助金が増えるかもしれない。これは、県の幹部職員が霞が関から来る場合も同じ意識で、こういう意識が多い限り、地方自治は育たないと思う。
岩國氏 これから知事・市町村長の権限が飛躍的に増大するが、多選の弊害は。
恒松氏 これは個人個人の首長の考え次第で、私は四期四選したら住民の期待に答えられなくなるのではないかと危惧していたから、その主張を通しただけ。人によって違うし、七選も八選もやった方が地域にとって重要と思う人もいるかもしれない。
岩國氏 一括法案全体をどう評価するか。
井下田氏 依然、中央関与の側面が強すぎると思う。逆に言えば、依然として地方不信を払拭できないまま一括法案が組み立てられているところに、問題の根が内在している。
岩國氏 市町村合併だが、コストの高い役所が近くにあったほうがいいのか、たとえ遠くてもコストの低いサービスがいいのか。
池上氏 合併イコール、コストが安くなる、人口が大きくなったからコストが安くなるとは、実はなっていない。
岩國氏 合併してもコストが下がらなかったのは職員組合の抵抗でリストラができなかったことに問題があると思う。行政サービスのコストを下げるのは国民の願い。職員側にどんな努力・策があるのか。
池上氏 自治体職員に思い切った研修機会を含めた資質・レベルの向上を期待する。二つは住民参加型の政治をどれくらいつくれるかだ。
佐藤茂樹氏(公明) 地方事務官制度の廃止に疑問が残るとの根拠は。
井下田氏 地方分権は、身近なところで自主裁量権・自己決定権が保障されること。地方事務官制度は、以上の観点に立って決着つけてもらいたい。
西尾氏 健康保険、国民年金の保険料徴収は、保険者たる国の責任であり、厚生事務官、労働事務官に切り換えるべきと思っている。
佐藤氏 住民からみて地方分権の効果をあらしめるための今後の課題は。
恒松氏 気長に検討すべき課題だ。大切なのは、市町村・都道府県がみずからの判断で政策をつくる、政策能力を発揮するような体制を整えることが大事だ。
井下田氏 遠くにある中央省庁を身近な中央省庁に引き戻す施策が一括法案のベースに位置づけてほしい。それが、全国三三〇〇余の府県・市町村が身近な自治体になり得る下敷きにもなる。
春名真章氏(共産) 憲法第八章に地方自治が盛り込まれた経過と、関与の問題について。
池上氏 明治憲法には地方自治の条項はなかったが、戦前の自治制度のもと、飢饉が起きると私財をなげうって行政を行った首長もいた。こうした努力の上に立って今の日本の地方自治がある。もう一点、現行憲法がある限り、国民の権利として地方自治という制度が確立したことが明確になっている。
関与は、国と地方団体の関係のようにみえるが、本当は地方自治体の住民と国との関係に帰着せざるを得ない。その点で、住民の合意形成機関は議会であり、この制度をいかに大切にするかが注目される。是正の要求の議論は、広すぎるし厳しすぎるし、権力的すぎると言わざるを得ない。職員の資質向上だが、機関委任事務のように、何一つ自治体が自主的に決定できない、職員が知恵や知識を使うことのできない制度が存在する下で、職員の資質が向上するはずがない。今後、関与が強くなればなるほど職員の質が下がってくるとみている。
春名氏 議員定数を削減するが、議会活性化の面から間違っている。
恒松氏 議員を削減すべきでないとの意見だと思うが、それを法律で決めることがそもそもおかしい。議会議員が多い方がいいのか少ないほうがいいのかは、地域社会により事情が違うので、住民が決めることだ。
春名氏 法定受託事務の定義だが、国の強い関与を残せるための変遷と感じるが。
西尾氏 勧告は、法律上の文章に使えるようなところまで厳密に詰めたわけではない。問題は中身が変わったかどうかだ。国民の利便性・事務処理の効率性の表現が消えた問題だが、これを国の直接執行事務にすべきか、地方団体の法定受託事務にすべきかの区分けをするときの基準として考えた。したがって、地方団体の事務になったものの中で、どれが法定受託事務か自治事務であるべきかというときの基準ではない。地方自治法は、地方団体の事務になったものについて、どういう事務区分するかという定義を置く建前になっているので、国民の利便性・事務処理の効率性は必要のない基準だから定義から外すということだ。次に国の責務だが、法制的な検討の結果だと聞いている。問題は、それが関与を広げることになるかだが、その点、関与に関する基本類型の設定等は勧告どおり実現した。その後の係争処理手続も勧告どおり創設しているので、この定義が変わったことで関与が拡大していることは全くないと認識している。
春名氏 都市計画法、建築基準法では国の直接執行、代執行が存続・新設されているが、その基準の定義が抽象的で関与が広がる危険性を感じるが。
池上氏 強い危惧をもっている。関与の判断基準が文字どおり一方的に国(ということだ)。
畠山健治郎氏(社民) 三つめの改革だと鳴り物入りだが、中身はこのとおり。統一選挙では争点にすらならなかった。これからどうあるべきか
西尾氏 今回の分権改革が一〇年かかると言ったのは、全自治体に理解され使われるようになるのにはと言ったので、理解の早いところは直ちに反応を起こすと思っている。地方団体をよりいい自治体にしていくためには、今回の改革を第一次分権改革とすれば、第二次分権改革、第三次分権改革を考えていくべきだ。不足をこれからどう改革するかを国民的な論議をして積み上げていくべきではないか。今十分でないから総合的な改革案ができるまで待とうというのでは、改革は進まない。歯車が止まるのではないかと恐れる。
恒松氏 地方団体が自信をもって取り組む姿勢が大事だ。現在の機関委任事務という厳しい制度の中でも、自治体はできないわけではない。一括法はプラスの要素であり、要はやる気があるかないかということだけだ。
畠山氏 地方事務官について。
池上氏 住民、国民の生活との関係でどんな事務が望まれているのか、もっと正面から精査する必要がある。
井下田氏 これを機会に、うめきや悩みに近いところにいて、よい仕事をしてくれる人がふえてほしいと思う。
畠山氏 地方分権推進法を延長し、見届けをやることも一つの方向と思うが。
西尾氏 この一括法案が成立すれば、これに続いて膨大な政省令の改正が行われるので、一件一件チェックしなければならない。第六次勧告に取り組むかどうかは、国会審議が終わった段階で改めて委員会として慎重に検討しなければならない課題と思っている。