基調講演

二十一世紀の自治体条例 ― 課題と展望 ―

東京大学大学院総合文化研究科助教授
斎 藤  誠  氏

斎藤誠氏


 おはようございます。若干、大げさなタイトルを掲げさせていただきました。自治体を取り巻く昨今の社会状況というものを考えますと、大きな展望をもった分権改革というものにもかかわらず、国の意向のもとに自治体がショートレスポンス、短期間のうちに答を出さなければならないような問題が縷々登場しております。狂牛病しかり、炭疳菌問題しかりでありますが、逆にそういうときであればこそ、もう少し長いスパンをとって大きく構えることも必要ではないかという趣旨で、タイトルとしてはせいぜい大きなタイトルを掲げました。

 以下、セミナー資料の5・6ページにありますレジュメに沿ってお話いたしたいと思います。ご紹介いただきましたように、私は、昨年以来、地方分権推進本部に設置されました「条例研究会」に座長として参画する機会を得ました。そこで、本日配布されました「『地方分権時代の条例に関する調査研究』の中間まとめ」、これを適宜紹介しながら論を進めます。ただ、この内容をそのまま紹介するのであれば、そのまま読んでいただいたほうが早いわけでありまして、座長として、あるいは研究者個人として、ここはもう少しこういうことを突っ込んで書けたのではないか、あるいはこの文章については背後にこういう議論が研究会であった、あるいは研究会以外でのかくかくしかじかの議論を踏まえてこういう文章が作成された、ということを中心にしたいと思います。

 なお、この研究会におきましては、研究会における討議とあわせて、自治体における条例制定に向けた体制整備に関するアンケート調査を実施し、それを取りまとめた部分もございます。この部分につきましては、適切な役割分担という観点もございますので、午後の吉田事務局長の報告に譲りたいと思います。それから、この研究会、「中間まとめ」と書いてあることからわかりますように、現在のところ分権時代の条例制定に関するありとあらゆる問題を取り上げられたわけではございません。そこで、先進的な自治体における個々の取組み及びそれをめぐる諸問題につきましては、後ほどの、各自治体からの取組状況の報告及びディスカッションを待ちたいと存じます。

 まず、はじめに、「分権改革における条例の位置」とレジュメに掲げました。今回の地方分権改革は、もうご存じとは思いますが、国と地方の間の役割分担を見直すとともに、大きな柱は、国と地方公共団体の関係、特に国の地方公共団体に関する関与のあり方というものを大きく変革する、そこに主眼があったことになります。そういたしますと、地方自治体が定立する条例そのものの規定、これは地方自治法第14条ですが、この部分は、大変革といいますか大きな改正が加えられたというわけではございません。改正前と改正後の地方自治法第14条を比べていただければ明らかで、条文の位置が特に変わったというわけでもありません。内容の変更といたしましては、いわゆる権利義務規制、行政法でいうところの侵害留保ということになりますが、その権利義務規制を自治体が行うに当たっては条例を定めなければならない。これは、従来からそう言われていたわけでありまして、これを確認するという規定が置かれたというのが1つございます。それから、第14条自身を見てみますと、もう1つは、条例に過料の規定を置くことが可能になる、こういう規定が入ったわけです。ですから、第14条にのみスポットを当てますと、そういった従来の議論の確認あるいは過料規定が入ったという微調整、ファインチューニングにとどまるということになります。

 しかし、分権改革全体に視野を広げて見ますと、条例制定権の範囲及び条例制定権と法令との関係が実際には大きく転換しているということになります。なぜかといいますと、機関委任事務が廃止されたというところが非常に大きいわけです。その点について確認するために、レジュメでは地方分権推進委員会の最終報告から1つのフレーズを引用しておきました。「自治事務はもとより法定受託事務」 ─機関委任事務が模様替えをした、どういうふうに模様替えをしたかというのが非常に大きな意味があるわけですが─ 「もまた『地方公共団体の事務』であることが明確にされた。そこで、平成12年度以降は、地方公共団体には、『国の事務』は皆無となった」、こういう文言がございます。条例制定権の拡大状況を中間まとめで見てみますと、5ページの図がわかりやすいかと存じます。自治体が条例に独自の規律を置くことができる範囲というものは、分権改正前は上の図の左側の部分に限られていました。それが、改正後には法定受託事務の部分も含めて拡大する、もちろん「法令の範囲」という条件は付いておりますが、視覚的に見てもこのように拡大をしたということがいえます。もちろん、改正前の、右側の真っ白になっている部分につきましても、国の法令の特別な委任があれば条例の制定は可能でありました。いわゆる委任条例といわれるものです。それが、今回は、正面から自治事務、法定受託事務ともに自治体の事務と位置付けられ、いわゆる自主条例の制定可能性というものは大きく広がったということになります。

 そこで、様々な独自の政策を実現するために条例を用いる、逆にいえば条例を制定しなければならないという場面は、飛躍的に拡大したといえると思います。そこで、レジュメでは、「条例制定権拡大の意味」というのは、自治体の「独自の政策の表現・実施方法」であると同時に、今回の分権改革が強調しております住民及び地方自治体の自己決定、そういうものに鑑みると、「自治体に付託された責務・責任の表現・担保手段」として大いに重要なものとなってきた。そして、「規制改革・法化・司法改革の流れのなかで」と書きましたが、それぞれ耳に馴染みのある標語といいますか、スローガンだと存じます。規制改革につきましては、単純な規制の緩和、廃止ではなく、規制をするのであれば、事前に明確なルールをつくって、その担保手段としては事後的な裁判所による審査を重視すべきである、こういう1つの流れが、国・地方公共団体を通じて様々なところで取り組まれているところでもあります。そこでは、事前のルール化、明確なルールをつくることによる国民あるいは住民の側の自由な行動の余地、あるいは規制緩和の関連でいえば経済活動等の自由な発動、そういう面が強調されがちですが、それだけではなくて、国民なり住民の自己決定・自己責任というものにつなげるためには規制改革というものが必要であり、そこに条例化というのもリンクしてくるということがいえると思います。

 それは、いい換えれば「法化」ということ。これも、論者によっていうことは様々に異なりますが、1つ共通項として取り出すとすれば、社会関係が様々に複雑になると同時に、地方自治体の事務あるいは責務との関係でいえば、従来、法律なり条例といったもので処理しなくてもよかったような領域、例えば地域の共同体で処理できていたような事柄、こういった事柄についても、法律であるとか条例といったルールなくしては処理できない、そういう状況が様々に出てきている。そういうものに対応するためには、法律なり条例なりというものをきちんと整備して、それで対応するということになります。

 1点だけ身近な例を挙げますと、最近判例にいくつか登場しているのは、ごみの集積所の位置をめぐる紛争です。いわゆる町内でブロックを決めてごみの集積所をどこにするか、新興住宅地であれば、ごみの集積所の位置を固定的に決めて、その近くだけ分譲価格を一寸安くするというようなことも可能ではありますけれども、そういった調整がなく固定制になっていて負担が公平でない、あるいはごみの集積所について輪番制への移行を検討する中であくまで輪番制を拒否している人がいたり、あるいは建前として輪番制をとっているにもかかわらずずっと固定した位置にある、そういうときに、「輪番制に賛成しない人は、うちの近くの集積場にゴミを出すな」という差止めの訴えが下級審に登場する。かつては、こういった紛争というのは恐らく裁判所にまで待ち込まれるものではなかったと思われますが、そういったものも登場する。

 それから、もう1点の司法改革。これもまた、新聞記事等連日取り上げられているところですが、訴訟というものを国民にとってより使いやすいものにするという観点が、司法改革の中には入っています。そういたしますと、自治体を相手とする訴訟というものも、当然その中には含まれる。そこでは、訴訟によって自治体あるいは住民の権利が今よりも実効的に実現されるという側面もありますが、現在の行政体制のままで、そういう司法改革への流れに乗ってしまうと、逆に自治体として苦しい状況もあるだろう。特に、後でお話いたしますが、条例なり法律の根拠に基づかない行政指導に基づいて様々な措置を行っていると、それに対して規制される側から訴訟が提起されるということも、今後大いに拡大するということが考えられます。

 そういった点で、条例制定権が今回の分権改革で拡大したことに対応して、適切な条例を自らの力で設計・運用することは、21世紀の自治体にとって権利を実現することであると同時に、住民に対する責任を全うすることでもあるという、やや抽象的な文言ではありますが、レジュメに「課題1」として掲げたのは、そういう趣旨です。

 より具体的なテーマのほうに移りますが、まず第1が「権利義務規制条例の課題」。この論点を条例研究会では最初に扱ったのですが、それはなぜか。昨今の自治体における独自の条例制定の取組み、これには様々なものがあります。いろいろな政策、基本的な政策を取り上げるに際して、その基本的な方針を条例化するいわゆる自治体基本条例や住民憲章のようなものもあれば、個々の住民ないし企業活動に対するレギュレーション、規制をかけていく、行政需要に応じて規制をかけておくというような個別の条例もあり、そういった新たな条例の取組みのデータについては、午後に紹介があるかと存じます。その中で、研究会で権利義務規制条例を最初に、かつ中心的に取り上げたのは以下のような趣旨です。

 分権改革によって条例制定権が拡大したとはいえ、先ほどの5ページの表で見ていただきましたように、法律あるいは政省令も含みますから「法令による」といったほうが的確かも知れませんが、国の法令によって、拡大したはずの条例制定権が制限される、国の法令により条例制定権が制限されるという場面は、改革後も相変わらず存続しています。この、国の法令と条例の抵触関係については、従来の判例、皆様ご存じのことと思いますが、一番大きな意味を持つのは徳島公安条例事件です。地方分権推進委員会自身、この徳島公安条例事件の枠組みはそのまま維持されるとしています。条例というのは、基本的に徳島公安条例事件が提示した国の法令と条例の関係という枠の中で制定される。 ─もちろん徳島公安条例事件の射程、あるいは、それが今後どう妥当するかということについては、実務に携わっている皆様あるいは研究者の中でいろいろ議論はあります。しかし、少なくとも国、特に裁判所では、この徳島公安条例事件に基づいた対応が今後もある程度は続くものと高度の蓋然性をもって予想されるわけです。─ そうしますと、国のほうで、自治事務であれ法定受託事務であれ、自治体の事務であるはずのものについて、あらかじめ法令でギリギリと定める ─最近の言い方でいいますと、規律密度の非常に高い法律を定められてしまいます─ と、実際には、自治体のほうで独自の施策を自主条例で行おうと思っても限界に突き当たってしまう。その限界が最も表れるのは、住民の権利を制限し、あるいは義務を課すようなタイプの条例であるいわゆる権利義務規制条例であり、この権利義務規制条例については、国の法令との関係を詰めないことには話が進まない部分が大きいのではないか。そこで、本研究会におきましては、権利義務規制条例の問題を最初に、かつ中心的に扱ったのです。

 決して、自治基本条例であるとか住民憲章というものが重要ではないという判断ではございませんで、そういったタイプの条例については、もちろん各自治体の創意でどんどん進めていただくということが必要ですし、この研究会においても後半部分でそういった基本条例タイプのものを扱うことを考えてはおります。しかし、今申しましたような理由で、権利義務規制条例について検討を加えてまいりました。そして、法令との抵触関係が改革後も続くとすれば、それに対してどう対応すればいいのかということです。まず、一般論として個別の条例を離れてどういうことがいえるか。このスタンスにもいろいろご批判はあるかと存じます。条例制定権一般という形で議論してもあまり建設的ではないのではないかという批判も分権改革の前後を問わず聞こえるところですが、先ほど申しましたように、徳島公安条例の判例の枠組みであるとか法令と条例に関する一般論というのが、分権前のものがまだまだ残っている状態でありますので、この一般論を詰めておくことも必要だというので、この論点について扱っております。

 そして、分権後の対応につきましては、中間まとめの14ページ以下にまとめてあります。これをまず時系列的に考えます。どうも国のほうで自治体の事務に関して規律密度の高い法令を考えているのではないか、あるいはどうも国のほうで取り込んでしまおうとしている、いまだ法律が登場していないけれどもそういう危惧があるという段階に対して、自治体の側から何か異義申立てといいますか、そういった立法政策に対して物申すことができないかという、時系列でいって早い段階で何ができるか、これは、16ページの「a 国の立法政策における配慮」というところです。

 ここで、「法令の地方自治適合性」、これも、非常に曖昧な文言で、憲法の地方自治保障が非常に漠然としたものであることが自治条例を展開する上でかなりネックになるということは、この後、すぐ別な側面からお話します。それにいたしましても、憲法及び地方自治法第2条に今回新設された様々な立法原則あるいは配慮規定というものを確保するためには、自治体の事務あるいは地方自治に関わる法令の制定・改廃に関して自治体の意見が十分に反映できるような仕組みを確保する、こういうことを自治体の側では主張し続ける必要があるわけです。現在も、地方六団体の意見具申権というものは地方自治法に存在しますが、立法論的には、その「a」の最後の段落に登場しますように、例えば、現在国の側でいろいろな施策に対する国民のパブリックコメントというものを推進しているところでありますが、その自治体版 ─自治体の事務あるいは住民規制に関するような法律が登場する場合には、自治体の見解がより適正に反映するような制度の創設─ も考えられるのではないかということを指摘しております。

 その上で、自治体の事務に深く関わる法令が実際に登場した場合にどういうことがいえるかが次の段階の問題ですが、レジュメでは、「事前の対応」に続いて「独自施策をサポートする法令の活用」と書いてあります。これは、事前の対応あるいは分権改革を受けた各省庁の配慮によって、国の法令において条例による規律を定めうることを明示的に書く規定が出てきております。都市計画法あるいは大店法を例に後で紹介いたしますが、そういったものについては、使えるものは最大限活用していただきたい。つまり、国のほうでボールを受けとめて条例による規律を明示的に認める規定については、これを活用するという方向です。

 それに対して、問題がより尖鋭に出てくるのは、規律密度の非常に高い法令、独自の観点からの条例をつくろうとしてもどうも難しいのではないかというものが登場した場合にどう考えるかということですが、この点に関しては、中間まとめの15ページ、「b 分権改革を踏まえた法令解釈」のところで研究会の見解を示しております。

 ここでは、新設された、あるいは改正された地方自治法の新しい規定を踏まえた上で、条例制定権の範囲が以下のように拡大するのではないかということを、@、Aと分けて書いております。

 @として、「法令が地方の実情に応じて別段の規制を施すことを容認していることが明確な場合」 ─これは先ほどいいました法令のレスポンスで明確に条例制定権を認めているもの、それに加えて、法令全体の趣旨から別段の規制を施すことを容認していることが明確な場合─ これは「当然であるが、それが明確でない場合であっても、国と自治体との『適切な役割分担』等に照らせば、自治体の事務について条例を制定することは原則として可能であろう」。Aとして、特に自治事務については、法定受託事務とは異なる取扱いが要請されており、結論部分だけ読みますと、「自治事務について設けられた個別の法令による規律は、いわば『規律の標準設定』として扱って差し支えないものがあり、このことによって条例による規律が直ちに排除されると解すべきではないであろう。」

 こういう2つの節を置きました。本当は、先ほど地方自治の憲法保障ということをちらりといいましたように、@・Aの前段階には、まるゼロとして、法令自体の合憲性、つまり憲法の地方自治保障に法令が適合しなければならないというものがあるはずですが、そこがなかなか具体的には提示しにくいわけです。つまり、日本の憲法における地方自治保障のあり方からすると、これこれの法令の規定は憲法の地方自治保障に違反して違憲である、ということは現在の理論状況ではなかなかいえない。教室事例、大学での講義等に使うためにつくる教室事例ではそういうものを出すことは可能かも知れませんが、憲法の地方自治保障というのを具体化して、個別の法令がこういう場合に合憲である、こういう場合に違憲であるということは、研究者の側の取組みも遅れているといえるわけです。そこが1つの問題ですが、そのまるゼロにつきましては、この研究会では特段の提言はいたしておりません。私自身は、条例と国の法令との関係につきまして、例えば中間まとめ17ページの参考文献3「国法の規律と地域性」やプロフィールで紹介されている文献で、そういった作業を細々と続けていますが、なかなか個別の法令につながらないところです。

 そこで、憲法原則というのは立法政策上の配慮というものにつながってくるということを重視し、なおかつそういう憲法規定を背景にしながら、今回地方自治法の第2条で立法原則、配慮原則というのが設けられたのですから、そういうものを生かした形で法令を解釈する、こういう手法で条例制定権の範囲を拡大できないかという問題設定です。

 そして、Aのところで、自治事務について設けられた法令による規律について「規律の標準設定」と考えてもよいものがあるのではないか、という案を出しました。この考え方は、分権改革前後において、例えば、上智大学の北村教授あるいは本研究会に参加いただいている筑波大学の櫻井助教授、更に自治体の実務家の方から提示された「標準法」という発想に連携したものです。つまり、規律密度が高いように見える法令、あるいは個々の法令の条文あるいはそれに基づいて定められた基準というものは標準法であって、条例が定められていないときにはそれによるけれども、条例が定められた場合には条例のほうが優先するという考え方、につながるものです。ただ、法律全体が標準法であるという考え方ではなくて、よりミクロに見て、ある規定あるいはある基準というのが、場合によっては条例によってそれと異なる定めをすることができる、そういうものではないかということで、「規律の標準設定」という言い方を提示しました。これは、確か、研究会における行政学の金井委員から出てきたアイデアを生かした文言です。この点について深めなければならない問題は、それでは、自治事務に関する法令の規律、高い規律密度を持つ規律について、一体どういう場合に標準設定であり、どういう場合には標準設定ではないか、という切り分けです。

 1つの非常に割り切った考え方として、自治事務に関しては全部標準設定であるという考え方があるかと思います。しかし、自治事務と法定受託事務の関係について冒頭の部分で申しましたが、自治事務にせよ法定受託事務にせよ、自治体の事務と位置付けられており、なおかつその差異は「地方自治法に定められた国の関与の差異」という相対的な差異にとどまると考えると、自治事務に関する高い規律密度のものはすべて標準規律であるとは申せないのではないか、そこで、Aの文言としては、こういった書き方になっております。具体的に、この標準設定論を個別の法律と条例との関係においてどう生かしていくか、ということが求められます。そこで、本研究会では、ケース・スタディーとして国の法令と条例の関係を考えるために、都市計画法の開発許可と大店法の規制の2つを取り上げました。中間まとめでいいますと、19ページ以下が都市計画法で、特に開発許可に関する独自規制の可能性についての部分が23ページということになり、大店法に関する検討部分を取りまとめたのが27ページ以下です。

 都市計画法、特に今般の改正後の都市計画法と自治体のまちづくりの関係については、既に様々な文献が出ています。特に今回の都市計画法の改正で、先ほどの私のレジュメの「独自の施策をサポートする法令の活用」というところでいえば、都市計画法自身の中に条例の制定を明示的に可能にするものが ─もちろん、その範囲の限定が付いているかどうかというのが大問題でありますが─ 多く登場しており、そういった都市計画法全体の条例規定というものを睨みながら本来は議論しなければなりません。つまり、都市計画法全体に対する自治体の独自のスタンスといいますか、それをどう定めるかという議論が重要であり、それに関する文献も多く出ております。例えば雑誌「都市問題」の本年8月号には、そういった観点からの特集がありますので、あわせて参照いただければと思います。繰返しになりますが、本研究会では、時間の制約もありますから、あくまでも法令と条例の抵触関係に関するケース・スタディーという形で、都市計画については特に開発許可の規定に絞って、どういうことが条例で可能かということを検討し、その方向性を23ページに記載したところです。

 独自規制の可能性としては、まず、手続に関する独自規制、特に事前の手続、様々な住民参加の手続を考える、 ─これは、従来、要綱等において取組みがなされていたところですが─ こうした独自のものを開発許可に付け加える可能性があるか否かということについては、結論としては、可能性としては大いにあるということになります。こういう手続に関する独自の規制は、どちらかというと、実体規制に関わるものに対比して、より容易に認められやすい。その理由は何かということについては、「a 開発許可手続に対する独自規制」の最後にありますように、自治体の独自の手続の「規律がよほど密で、住民や事業者が実際に権利を行使できないような場合は別として、その手続きを踏めば」、もともと住民や事業者が持っていた「権利は実現できる」はずである。つまり、権利の実現を全く阻害してしまうような手続でなければ規律の可能性というのがあるのではないか。

 それに対して、より議論があるところは、「b」の「開発許可基準に対する独自規制」、つまり実体規制のほうです。こちらについても、都市計画法自身、今回の改正において、「政令の技術的細目において定められた制限については、政令で定める基準に従い条例で強化又は緩和することができる」ということで、自治体による条例制定の範囲を広げるという手当てがその限りではなされている。そこで、都市計画法全体の様々なその他の規定もあわせて、こういった規定を活用していくというのが1つの段階です。しかし、それ以上に何か独自のものを付け加えることができるかできないか、 ─1つには、政令の技術的細目以外のものを条例で付け加える。もう1つは、政令で定める基準とは異なる基準というものを制定するということです。─ これができるかできないかということですが、先ほどの標準設定論がここにそのまま適用できるかどうか、これは、さらに、開発許可に関する法律・政令と自治体の側が制定しようとする条例の文言を比較検討しなければならない問題ですけれども、可能性は開いておくべきではないかというのが、この研究会での暫定的な結論です。その節の後段部分では、少なくともそういったことを検討するという方向が取り上げられています。

 もう1つ、大店法についても同様の検討を行っています。改正後といいますか、新しい大店立地法と自治体の独自条例の可能性についても、同じような観点から検討を行い、30・31ページでは、大店立地法上の権限が与えられている自治体 ─都道府県、政令指定都市─ が行う独自規制と、大店立地法の実施主体ではない自治体がそういった店舗の進出に伴う環境問題等に対応して独自の規制を行う、という両方の可能性及び限界について、そこで書いています。ただ、この点については、時間の関係もあり、「条例の実効性確保の問題」であるとか「都道府県条例と市町村条例の関係」を、あと40分ぐらいで扱わなければなりませんので、もし時間があれば大店法の検討に戻ってくるということにしまして、個別の2つのテーマの検討及びその背景については、以上にいたします。

 この権利義務規制条例における法令との抵触関係について、レジュメに戻っていただきますと、1ページ目の下の部分に、「条例による法令への要件追加か、それとも平行する独自規律か?」と書いてあります。規律の標準設定論というのを手掛かりにしながら、先ほどの2つの分野について研究会で検討をし、この論点についてはほぼこういう方向で報告書に落とし込んでいこうというまとめの段階で、別の方向から、法令と条例の関係について、非常に重要な問題提起がなされました。

 それは、具体的には、中間まとめ17ページの参考文献の1と2、奇しくも同じ塩野宏教授の記念論文集に載った、岩橋助教授の論文と小早川教授の論文でございます。この1・2の論文、 ─この中間まとめの「参考文献」欄は、限られた時間ではありましたが、事務局が頑張って、それぞれ紹介コメントというのをできるだけ付けています。ただ、この付け方は、どちらかというと、条例制定権ないし自治体の独自施策の拡大、それを進めていくという観点でどう手掛かりになるかという、積極的というか後押し的な紹介でして、この1・2の論文に関する紹介もややそういう側面が出ているところがあります。 ─この2つの論文を通じて提起された問題はどういうことか。これは、国の法令があり、それとは異なる定めを条例で行うという場合に2つのタイプがあるだろう。1つは、法令とは全く独自にその要件、効果、つまり規制の仕組み全体を独自の条例で定めるもの、これを岩橋さんは「並行条例」と呼んでいます。つまり、国の法令による許認可があり、その許認可に伴って罰則その他の様々な実効性措置がある。そうした要件、効果それから罰則という国の法令があるとして、それとは異なる規律を条例でワンセットで全く独自に定める、これが並行条例といわれるものです。それに対して、条例で法令にない独自のものを定めるというときには、もう1つのタイプがある。これは独自の要件あるいは基準というもの、この部分は条例で定めるけれども、その余の仕組み、つまり、その基準を満たさなければどうなるか、許認可がなされるかなされないか、あるいはそれに伴って罰則があるかないか、この部分については、既にある国の法令を利用する。つまり、効果ないし罰則といった仕組みについては法令に乗っかり、要件なり基準についてのみ条例を用いる、このタイプを、岩橋さんは「書きかえ条例」と呼んでおります。

 やや大雑把な紹介になりますが、岩橋さん及び小早川教授の2つの論文に共通しているのは、後者の書きかえ条例、つまり国の法令の仕組み・効果・罰則を利用する形で独自の要件だけを条例で定めるということについて、非常に抑制的であるということです。岩橋さんのほうは、こういった書きかえ条例については、「法令に明文の規定がない限りはできない」と書いています。基本的には明文の規定がなければだめである、と言っています。それから、小早川教授の論文についても、これは参考文献の紹介コメントにある程度反映していますが、国の法令のほうで、要件の中の裁量基準、裁量判断要素については条例による追加は認めていると解される場合はあるだろう、それから、先ほど説明した独自の手続要件の加重については条例制定の余地があるだろう、しかし、そうでない部分、つまり要件そのものを改変し、その効果については法令を使うということについてはできないのではないか、という観点を提示しています。これは、まとめますと、法令にない独自の規律を行うのであれば、いわば「自力本願」といいますか、「ワンセットまるごと条例で行うべし」という主張になろうかと思います。ただ、これは、従来、国の法令を利用する形で様々な事前指導、要綱に基づく事前指導というものを使って施策の実効性を確保してきた自治体にとっては、かなり重大な結論をもたらすということになりましょう。つまり、自前のワンセットの条例に基づく規律は、従来は弱いものであると考えられてきて、国の法令に乗っかる形での規律が多かったのですから、その部分を条例化して、国の法令になお乗っかろうと考えている自治体にとっては、この考え方というのはかなりネガティブに響くと思われます。

 そこで、独自の規律の2タイプと、本研究会における先ほどの標準設定論をどう位置づけるかという問題が出てきます。若干コメントしておきます。第1に注意しなければならないのは、3者とも法令の、憲法上の地方自治あるいは地方自治法上の立法原則への適合性というのを前提にして議論しています。つまり、こういった法令に上乗せする形での書きかえ条例が許容されるかどうかという議論をするに際しては、その法令自身の問題として、合憲かどうか、 ─ただ、ここが明確に提示できないところが問題だとは申しましたが─ それにプラスして、地方自治法上の立法原則、配慮原則に適合したかどうかということをまず問うた上で、この書きかえ条例の許容性というのを議論すべきという点では共通です。

 その上で、法令の仕組みを利用する書きかえ条例の許容性について、私自身は、明文でこれを排除する、ないしは当該法律ないし当該法律を含む法体系全体の解釈によってそれが排除されている、そういう場合を除いて自治事務について書換えを許容する、並行条例ではなくそれを書き換えるということができる場合 ─これは言い換えれば、当該法令の規定は標準設定であって、その法令を利用した上での独自条例の可能性 ─があると考えています。地方自治法上採用された立法諸原則からすると、自治事務について法令がそういった形で要件をオープンにしておかなければならない、あるいは法令がそういう形で条例による補完の余地を認めるということで、はじめて立法原則あるいは配慮原則、ひいては地方自治の憲法上の保障というものが確保される場合があると考えられます。レジュメに一言「総合性を活かすために」と書いたのは、その発想と現実的な解釈論をつなげようとした趣旨です。表面的に非常に過剰な規律密度を持った法律がある。そして、独自の条例における規定の余地が少なくみえる。そういうものに対して、今回の分権改革でも強調され、条文にも表現された地域行政の総合的な実施、そういうものを自治体が役割分担・権限として持っているということにも鑑み、法令を利用するタイプの条例及び並行条例両方について、総合性あるいは地域における行政需要というものを横断的条例として反映させる。あるいは具体的な制度としてそこに入れ込んでいくことによって、先ほどいいました国の法令の要件がオープンになっているとして、オープンになっている部分を埋めるということを主張する。そういう戦術というか戦略があり得るのではないかと考えます。

 条例の適法性、これが訴訟で問われることは従来と変わりませんが、その条例の適法性というものの主張の中に、そういった総合性であるとか地域における行政需要というものをビルトインして、それで国の法令の解釈について標準設定というものの解釈につなげていく方向です。先ほどいいましたように、並行条例と書きかえ条例の問題というのは、研究会でのこの部分の取りまとめがあらかた済んだ後に出てきた論点ですので、研究会全体としての成案というのを得ているわけではありませんが、私個人の見解としては、そのように考えた次第です。

 全体として取りまとめるとすれば、抽象的な言い方になってしまいますが、レジュメの1ページ目の最後に書きましたように、課題として「権利義務規制における独自性の追及には、関係法令の精査と、説得的な理論構成が求められる」ということになりましょうか。そして、国の法令が登場する前に様々に働きかけ、そこにルートを開く。それから、国の法令が登場した場合には、自治体の側で理論武装して独自条例制定の拡充を考える。そして、時系列の最後の部分に何が位置するかといいますと、そういう法令と条例の間の関係 ─最終的にどちらが正しいのか、適法なのか、合憲なのかという問題─ については、従来型の司法審査の道に加えて、今回の分権改革で国地方係争処理委員会から裁判へという新たなルートが開かれた。条例の無効確認訴訟というのは落ちてしまいましたけれども、国地方係争処理委員会という、法令と条例のバトルの場が1つできたのですから、そういった事後的な場での主張というのも含めて、権利義務規制条例の法令との抵触関係を考えていただきたいと思います。

 同じく、権利義務規制条例の中の課題として、レジュメの2ページ目、「実効性確保の問題」に移ります。中間まとめでいいますと、32ページ以下がこの課題を扱った部分です。レジュメでは、「『行政指導の多用』からの転換」と書きました。これは、先ほどの書きかえ条例の問題とも関わりますが、従来、自治体にとって最大の実効性確保措置というのは一体何だったのかと考えますと、まさに国の法令とリンクした形での要綱による事前手続なり行政指導だったのではないか。つまり、建築基準法であるとか都市計画法であるとか、国の法令に基づく許認可というのがあり、それだけでは地域のニーズに応えられない、あるいは緊急に生じている問題に対応できないという場合には、その法令にリンクさせる形で要綱をつくり、行政指導をし、それによって実効性を確保する。つまり、独自の手続なり実体内容規制について、それをどうやって守ってもらうかといえば、後ろに国の法令による許認可が控えている、これが最大の実効性確保手法ではなかったのかと思います。

 しかし、ご承知のように、こういった国の法令と結び付けた形での事前の行政指導あるいは要綱というものについては、様々な判例で限界が課されてきたところです。一方では、様々な判例でそういった手法について限界が課された。他方では、国の行政手続法、自治体が制定した行政手続条例においても、そういった形での行政指導というものにある程度抑制的な規定が入り、なおかつ、最初で言及した規制改革であるとか、法化であるとか、司法改革の全体の流れからいいますと、そういった手法によって条例の実効性あるいは施策の実効性を確保するということは、ますます大きな壁に突き当たることになります。もちろん、手法の一部については、書きかえ条例というのが許容される部分があるとすれば、その書きかえ条例によって存続する部分がありえますが、先ほどの、自治事務であれば法令の規定が全部標準設定であるとはいえない、なおかつ、書きかえ条例が許容されるかどうかについては議論がある、ということからすると、ここについても壁があります。

 そこで、条例の実効性確保のために、自治体がどういう工夫をして、どういう仕組みをつくり、それをバージョンアップしていくにはどうすればよいかということについて、3ページ以下で個別に取り上げています。レジュメでは、「新しい手法の採用」ということで過料、公表、誘導手法の3つを掲げました。規制的手法、誘導的手法の全部について個々に申している時間がありませんので、3つについて簡単にコメントいたします。

 まずは、特に問題のなさそうなといいますか、比較的無理なく採用しやすいものからいいますと、過料があります。これは、最初にいいましたように、今回の第14条の地方自治法改正によって、条例においては罰則だけでなく過料というものが利用可能になった。中間まとめの36ページに、その活用というのが1つ考えられるのではないかと書いています。例えば、軽度な違反については、まず過料を科す。それでもなお違反が続く場合には罰則に移行する、というようなスキームです。

 それに対して、研究会でもいろいろ議論が錯綜しましたのは、 公表制度についてです。中間まとめでは33ページ以下ですが、条例の義務違反制度について公表を定めるというのは、既に様々な分野で用いられています。中には、条例で課された法的義務の違反について公表するというだけではなく、34ページの「c 行政指導と公表」で取り上げているように、行政指導違反について公表するという規定もあります。ただ、それぞれにつきまして、報告書は、ニュートラルあるいはやや抑制的なタッチで書いています。その背景の1つには、公表というのが、刑罰とか許認可の取消とは違って公表を受けとめる側の、社会といいますか住民の反応に期待する制度であって、その効果そのものを自治体がコントロールすることはできない。そういうことがあります。34ページの「d」では「公表制度をめぐって」として、その他の論点も指摘していますが、それ以外の「b 条例上の義務違反と公表制度」と「c 行政指導と公表」の部分でも、そういった公表の持つネガティブな面に着目しています。

 そこで、今後も、公表制度、特に行政指導違反に対する公表制度というものを引き続き行うのであれば、その要件あるいは手続というものを明確に置く、相手方の権利保護ということを考えた手続を置く、 ─もちろん自治体の中には、既にそういった事前手続をかっちり置いている自治体もありますが─ そういった方向で考えるということになろうかと思います。ただ、現在のところ、そういう公表制度がどの程度効いているのかといいますと、例えば39ページの参考文献6の神奈川県自治総合研究センターの調査研究によりますと、神奈川県の市町村において制定された建設残土条例及びごみのポイ捨て条例についてみると、検討対象とした28の条例全部に罰則及び公表規定が置かれていますが、実際に発動された例はどれだけあるかというと、公表が1例にとどまるという指摘があります。公表制度自体を置くということによる抑止効果というのはあると思いますけれども、先に申しました問題点あるいは現実の用いられ方 ─規定はされているけれども、用いられ方としてはさほどではないということ─ をどう考えるかという問題になろうかと思います。

 次ぎに、従来から用いられている他の手法をもう少しバージョンアップする、あるいは正面から位置付けることはできないかということで出てきますのが、レジュメのその次、「権限の連結・融合という手法の是非」です。中間まとめでは、36ページ「行政権限の融合をめぐって」 ─従来でいえば、例えば水道法に基づく給水拒否、これは、実務的な観点は、今日午後登場願います天野先生のほうがずっとお詳しいわけですが、他の法令によって自治体に認められているこういった権限を使って、独自の条例の実効性確保手法とする。 ─こちらについても、判例において限定が付されてきています。

 この手法については、用いようとする手法のもとになっている法令解釈、これがアルファでありオメガであるといいますか、もとになっている法令の解釈が、どれだけ独自の条例をリンクさせうるかの決め手になる。その意味では、先ほどから議論いたしました書きかえ条例と同じ問題を、この手法は含んでいるということになります。つまり、ある条例違反の状態をとらえて他の法令で与えられた手法にリンクすること ─給水拒否というものにリンクするとすれば、36ページの最後のところで紹介しているように、水道法の解釈というのが決め手になり、水道法上の給水拒否の理由がどれだけその法体系の中で拡大できるか。水需要というような法令上位置づけられたことについては、最近の最高裁の判例もある程度これを使うことを認めていますけれども、これと同じようなこと ─が、他の法令による権限でできるかどうかということを議論しなければなりません。実効性確保の問題について課題をまとめますと、「従来、行政指導によって確保していた実効性の水準」、これには国の法令とのリンクを含め様々な手法が用いられていたのですが、それを維持したいと考えるのであれば、様々に工夫して「新たな手法を模索することが不可避である」、これが課題3ということになります。

 時間の関係で若干急ぎますが、その次の論点は、都道府県条例と市町村条例の関係です。「規制の競合」と書きました。もちろん、この問題についての、1つの考え方は、都道府県の事務あるいは責務と市町村の事務というのが競合しない、重複しないようにスパッと線で分かれる、そういう制度のもとでは規制の競合という問題は生じない。特に国の側では、県と市町村の適正な役割分担による権限移譲は、国からのものも含め今後も進めていかなければならないということで、先ほどから何度か引用しました地方分権推進委員会の最終報告でも、「補完性の原理」等を参考にしながら、レジュメに引用したように「事務事業の移譲を更に推進する」としています。そこで、都道府県と市町村の権限なり事務というのが、非常に明確にスパッと切れれば悩みはない。確かに、そういった方向を進める要素が1つ出ております。国が後押ししている市町村合併ですが、都道府県の中には、これがある程度進むということを前提にして、それでは市町村合併後の都道府県の事務、役割分担というのはどういうもので、市町村との分担をどう再編していくかという検討を開始しているところもございます。あわせて、都道府県の役割あるいは都道府県の事務については、今回地方自治法の改正に伴い、広域あるいは調整、補完事務ということが位置づけられましたから、こういった明確な区分というのが理念としては考えられると思います。

 しかし、現実には、同じ事項を対象とし、あるいは同じ目的を持った都道府県の条例と市町村の条例が並立するという状況はあります。それについてどう考えていくべきか、今回の分権改革で、この点についてはっきりしていることは2つあります。まあ、2つのツールというか、1つは、逆に1つのツールがなくなったということで明確になったということですが、都道府県がつくる市町村についての統制条例というのは廃止されたということです。もちろん、昔はありましたが、現実に重要なものとして定められている例はなかったので、実質上、これによって廃止された重要な条例があるとかいう話ではありませんが、考え方としては、都道府県がいわば上に立って市町村を指導監督するというタイプの発想方法からの脱却が図られた、ということはいえると思います。今回の改正によって新たにつくられたもう1つのツールというのは、条例による事務処理特例の新設です。都道府県条例に規定を置いて、市町村長と協議の上その事務を移譲する、こういう形で事務委譲を図っていくということになります。

 ただ、このように役割分担の明確化が図られ、また、新しい制度がつくられてなお、住民なり事業者に対する規制について、都道府県と市町村両方が関心を持ち、規制しようとするということがあるので、その場合にどう考えるか。この点については、中間まとめ41ページの下の部分、「イ(ア)両条例の効力」以下で検討を加えています。

 その中で議論しなければならないのは、1つは、今回の改正後も、中間まとめ42ページの2段落目以降で引用しておりますが、地方自治法第2条第16項後段の、「市町村は都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない」、この項目が残っている点です。この条文をどう考えるか、これをクリアにする必要があり、従来の考え方の1つは、国の法令と自治体条例の考え方、これとパラレルに都道府県条例と市町村条例の関係を考えるというものでした。国の法令と自治体条例の関係と、都道府県条例と市町村条例の関係、両者は同じである。つまり、条例全域にわたって都道府県条例のほうが優位にある。ただ、都道府県条例と市町村条例の抵触関係、市町村独自の条例を制定できる余地があるのかないのかについては、これもまた、国の法令との関係を応用して、いわゆる徳島公安条例の目的対象論というような形で考える。例えば原田教授の地方自治法の教科書の立場です。

 それに対して、この規定をもっと縮減して考えようという考え方は、従来からもありましたし、分権後も提示されています。その限定の仕方は、1つには、この規定というのは、都道府県条例が市町村を直接の名宛人にしているものに限られるのだという考え方です。これは、例えば、43ページの参考文献5の「注釈自治法」、山内教授、小早川教授の執筆部分で提示されている見解です。この見解によりますと、都道府県の住民は対象にしているけれども、市町村そのものは出てこない、自治体としての市町村そのものは出てこないという条例については、特段この規定について考える必要はないということになります。また、もう少し限定しようとする考え方、この規定は、市町村があたかも住民なり事業者と同じ立場で都道府県条例の規制対象になる場面を考えているだけだ、こういう読み方です。つまり、例えば、県のほうで環境を保全しようとしてある条例をつくった。その環境保全の規制対象にいろいろな施設が挙がっていて、その中に、例えば市町村の作る公共施設であるとかが挙がっている。こういうものについての規定として読むという考え方です。

 このような2つの考え方があります。ただ、どちらの考え方も、分権後の考え方として難点があります。第1の考え方、都道府県条例のほうが優位にあるという考え方は、やはり分権後の都道府県、市町村が対等な協力関係に立つ、こういう考え方からすると、座りが悪い、落ち着きが悪いということになります。それから、第2の、この規定の対象を限定して考えるという考え方についても、規制対象になる側、住民なり事業者の側に立ちますと、これは二重規制になってしまうということになります。都道府県条例、市町村条例は、両方並び立つことができると考えますと、住民なり事業者のほうは、場合によっては両方の手続あるいは実体的な規律を受けるということになってしまいます。そこで、そういった二重規制を回避するために、いわば立法政策的にどう考えたらいいのか、42ページの「(イ)両条例間の調整」では、こういう角度から研究会の案を書いております。

 現在、こういった両方の規律が及ぶというような場面においては、自治体の条例で、例えば、県の条例の方でかけた規律を市町村との協議によって事後的に適用除外にする、あるいは、レジュメでは簡単に書きましたが、県条例の規制に対して市町村の独自の条例が後から出た場合には、県が市町村条例の内容を検討し、県条例と同様の効果が上がるものであれば、市町村条例の妥当区域では認定によって県条例の適用除外にする、こういう県レベルの条例がいくつか存在します。こういった条例をある程度活かしながら、それを少し敷衍して考えますと、いろいろな場面での協議が重要になってきます。県である行政課題を取り上げようとすると、果たして都道府県が扱うべき問題なのか、それとも市町村が扱うほうがより実効性があるのか、適切なのか、そういう判断を当然、現在もしているはずですけれども、そういった条例をつくる際に、まず市町村と十分に協議する。そういう場面での協議が第1です。第2は、県の条例にそういった仕組みをつくった場合に、その県の条例が適用になる範囲から市町村条例が出てきた場合に、協議によって外す、あるいは認定によって外すという仕組みを考えるということになりましょう。研究会の議論では、認定による適用除外というのは、都道府県が上位にある、いわば統制条例的な考え方を引きずっているのではないかという見解も出されましたが、そこは、認定についての仕組みを工夫する、つまり市町村から条例が出てきた場合のヒアリングであるとか手続をきちんと定めるということで、補完が可能なのではないかと考えております。

 逆に、市町村のほうで新たに行政課題を見つけたが、これはむしろ広域的にやったほうがいいのではないかという判断になりますと、県にもちこむだけでなく、広域連合を利用するか、あるいは市町村が足並みをそろえて条例を制定する例が現在もあります。実質に置いて条約タイプの条例とでも申しましょうか、そういった方向もありますので、そこでもやはり協議が重要になってきます。そういった横のレベルでの協働も含めて、課題の4として、「自治体間協働のルールをつくるのも、自治体自身の役割である」というふうに掲げました。この都道府県条例と市町村条例の問題については、このセミナーに向けての質問でもいくつか出ておりまして、例えば、都道府県がある行政課題に対応するために条例をつくり、それを即座に事務処理特例で市町村に下ろす、こういう手法はどうでしょうかという質問が出されていました。問題の性質によっては、市町村の側があまりまだ敏感でなくて、県のほうでまずそれをキャッチする。その上で、積極的な市町村が出てくれば、事務処理特例を使って下ろすということは、手法として十分考えられるのではないかと思います。特に今回設けられた事務処理特例については、都道府県と相手方市町村とで、それに至る十分な協議の過程が設けられると思いますので、そういった手法、レジュメでは、「二重規制の回避」として、「協議」、「適用除外制度」を推し進めると書いておりますけれども、そういった手法を活用するということがあるのではないか。

次の検討課題は、「要綱の条例化」、「要綱の今後」ということであります。時間がなくなって来ましたが、この論点を取り上げた理由は、一方で、最初に申しましたように、正面から条例を定める、それができる範囲が拡大したはずだ。そうすると、従来、要綱を用いてやっていたこと、これを条例化するという方向になる。そうやって条例化できるものは条例化した後で、今後も要綱による部分があるとすればどういうものなのか、その切り分けです。条例、規則そしてインフォーマルな手法としての要綱の切り分けという問題関心がこの研究会であったものですから、権利義務規制条例とは別にこの項目を置きました。

 その内容については、今回の私の報告では、権利義務規制条例のところで、従来、行政指導でやっていたことをできるだけ条例化する、特に手続についての条例はそんなにバリアがないのではないかということを既に申し上げましたので、その点については省略しまして、レジュメのキーワードで言えば、「行政指導手続の条例化」という方向、それから、限界はあるにせよ、実体的な基準というものも条例化するという方向がある。そして、なお要綱に残る部分があるとすればどういうことかということで、中間まとめの49ページで、こういった方向があり得るだろうということを掲げております。

 @として、基本的事項を定めた条例に基づき、その具体的な解釈基準や処理基準を定める。それから、縦割りの条例に対して、これを横断的に解釈するような要綱も有効である ─もちろん、こういった部分も条例で取り込んでいこう、都市計画なりまちづくりに関する基本条例で横断的な条例をつくろうという自治体もありますので、その場合に条例化することでどういうメリットがあり、要綱にとどめることにどういう意味があるのかということを考える。─ ということです。もう1つのAは、新規施策の実験的機能を果たすこと。要綱というのは、行政指導等の根拠にはなりますが、強制的な権利制限にはなり得ない。しかし、新たな施策について住民なり事業者の協力を得ながら実験していこうという場合には、要綱が登場する場面もあるのではないかという方向です。もう一つの論点として、これまでの行政指導要綱を条例化するときにどういった個別問題が生じるか。これについては、50・51ページで「近隣調整・同意条項」及び「開発負担金条項」について検討を加えていますが、これは時間の関係で省略せざるを得ませんので、ご覧いただければと思います。

 要綱の条例化、要綱の今後の課題をまとめますと、条例による権利義務規制の可能性を見極め、要綱による場合は、その実効性だけでなく適正さを確保する必要がある。これは、前段階の議論で、今後なお要綱を使える場面が何か、ということもあわせ考える必要があります。

 最後に、「むすび」としまして、「条例の役割」と書きました。研究会の中間まとめの段階では、今まで紹介ないし検討しましたように、権利義務規制あるいは都道府県条例と市町村条例の関係ということにスポットを当てましたが、条例は、そういったものだけが問題である、あるいはそういったものだけを定めるものではありません。国の法令に、権利義務規制にとどまらない、給付分野や基本計画であるとか様々なものがあるように、条例についても、様々な領域で条例の制定が可能です。国の法令との関係というのを正面から問題にしないで、自治体の創意工夫でできる場面が多いかと思います。その点については、今後の研究会で取り上げていく予定でありますし、方向性というか、こういうことがあり得るということについては、44ページに書いています。例えば、まちづくり基本条例ですとか、給付・助成作用についての条例、これについても、既に条例化の検討に入っり実施の道を歩んでいる自治体もありますので、そういったところの議論を踏まえながら今後検討していきたい。それから、条例、規則、さらに要綱との役割分担につきましても、機関委任事務が法定受託事務に代わって、機関委任事務の下で規則でやっていたものが条例化されたということがクイックレスポンスとしてはあるのですが、その後の条例と規則との関係についても、今後検討する必要があります。

 最後に、「言葉の真の意味での、自主条例の時代へ」。最後だけまた大げさではないかといわれるかも知れませんが、従来から、条例は自主法だ、自主条例だという言葉はあったわけですが、分権改革以前は、実際は、国による様々な縛り、関与ということで、真の意味での自主条例というのはなかなか難しかった、あるいは自治体のほうで自己規制して国でつくられるモデル条例をそのまま条例に落とし込んでいった、そういう意味で「真の意味での自主条例」でなかった場面も多かった。それはそれで自治体側の苦労も大きかったわけですが、今後は、21世紀を「言葉の真の意味での自主条例の時代」にすべく努力を重ねていかなければならないのではないかと考えます。ご静聴、ありがとうございました。

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