条例による規制の実効性確保のための措置

 

1 規制的手法
  (義務を課し、従わない者を排除することで目的を達成する方法)

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 (1) 行政指導
 行政機関が現実に行っている指導、指示、勧告、助言、注意、警告、斡旋等の行為を総称して用いられ、行政機関が一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める法律上の強制力を伴わない事実行為で、一般に「助言」「指導」「勧告」という呼び方で条例に規定している場合が多い。但し、行政指導に従うかどうかは相手方の任意。

 (2) 行政命令
 適正な履行の確保や義務違反の是正のために一定の措置や、行為の停止・中止などを命じるもの。具体的な名称は、「措置命令」「改善命令」「中止命令」などである。
 (3) 許認可の取消し
ア 許認可制度が採用されている場合には、その許認可を受けた者の一定の義務・条例違反、命令違反などに対して許認可の取消しを行うもの。
イ その発動の要件については、それが公正かつ適切に行われるよう、厳格かつ明確に規定するとともに、弁明の機会の付与、事前聴聞などの手続規定も整備する必要があるとの見解あり(参考文献B、G)。
 (4) 公 表
ア 条例上の義務違反を防止するために、違反した者の氏名や違反内容など違反に関する事実を公表する制度で、行政代執行法第1条でいう法律に留保された義務履行確保手段に含まれないと解され、条例により創設できる。
(参考:行政代執行法第1条)
 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。
イ 公表により行政処分以上の不利益を与える結果となる場合もあり、公表制度を置くべきかどうか個別に検討すべき。(参考文献 B、C、G、L)
ウ 事後的な救済としては、損害賠償請求訴訟や名誉失墜回復のために公表そのものの取消しを求める訴訟も可能との見解あり(参考文献E、G)。
エ 行政指導と公表との関係について
行政指導への不服従のみをもって公表を義務づける規定は(行政指導自体がその性質上、相手方に服従義務を課すものではないから)不適切であり、その前提として法的義務を明示すべきとの見解あり(参考文献C、G、I)。
 (5) 行政権限の融合(給水拒否等)
ア 他の法律により与えられている権限を利用するもので、例えば、上下水道・ゴミの収集等のサービスの停止や、事業者に対する工業用水・事業用の水道等の供給停止の要請など、公共サービスの供給停止等の措置を定めることにより、私人の行動を規制しようとするもの。
イ 要綱の場合とは異なり、条例で明確な基準の下にそのような規定を定めることは、ケースにより可能。但し、供給停止等の措置の適法性は、公共サービスの供給を規定する個別の法律に照らして考えるべきとの見解あり(参考文献B、G)。
ウ 救済方法としては、給水契約等の締結を求める民事上の訴えや、供給停止等による損害賠償請求も可能。
 (6) 経済的ディスインセンティブ
ア 課徴金は、行政上の規制に違反することで得られた利益を取り上げ、利得行為を無意味とする手法。独占禁止法や国民生活緊急安定措置法など国の法律で一部採用されている程度であるが、課徴金を条例で課すことについては見解が分かれており(参考文献B、C、G)、慎重に検討すべき。
イ 保証金は、事業者からあらかじめ金銭を保証金という名目で提供させ、これをいわば人質に、一定の行為や事業の実施、条件の遵守の確保を図るといった手法。この手法は、土地開発の分野で一部用いられているだけで、一般的に採用し得るものではないとの見解あり(参考文献B)。
 (7) 行政命令の強制的実現
ア 代執行
 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことができる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
(行政代執行法第2条)
 この「条例」には、法律の個別的な委任に基く条例のみでなく、法第14条第1項及び第2項の規定に基いて制定される条例をも含むと解せられている。
(昭和26年10月23日 福岡県議会事務局長宛自治庁行政課長回答参照)
イ 強制徴収
 分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の地方公共団体の歳入につき地方税の滞納処分の例により処分することができる(法第231条の3第3項)と規定されており、分担金、加入金、過料はすべて強制徴収の対象となるが、使用料その他の歳入については、法律に定めるものに限り強制徴収が可能。
ウ 民事手続の利用
 行政上の強制執行制度を利用できない場合で、条例上の義務が、地方公共団体等の所有権その他財産法上の権利と対応する関係にある場合(公の施設の利用に関する義務や使用料・手数料の支払い義務等)には、民事手続により義務の履行を強制することが可能。
 (8) 罰則の適用
ア 行政刑罰
(ア) 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。(地方自治法第14条第3項、以下「法」という。)
(イ) 実体法的には刑法総則の適用があり、手続的には刑事訴訟法によるのが原則。
しかし、実体法上または手続上、特別な取扱いが認められる場合(例えば、過失処罰規定や両罰規定等の特別の規定が置かれること)が多い。
(ウ) 救済措置としは、刑事訴訟法の適用がある。
イ 過 料
(ア) 条例に違反した者に対し、5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。(法第14条第3項)
 地方分権一括法による地方自治法の改正により、条例違反に対しても過料を科すことができるようになったが、過料は地方分権の自己決定・自己責任の原則に沿ったものであり、過料の制度を、単に法定受託事務についてのみ用いることに止めず、自治事務についても適切に運用することにより、それぞれの地方公共団体における政策実現に活かすべきことが求められる。
(イ) 分担金、使用料、加入金及び手数料の徴収に関しては、次のウ項に定めるものを除くほか、条例で5万円以下の過料を科する規定を設けることができる。
(法第228条第2項)
(ウ) 詐欺その他不正行為により、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収を免れた者については、条例でその徴収を免れた金額の5倍に相当する金額(当該5倍に相当する金額が5万円を超えないときは、5万円とする。)以下の過料を科する規定を設けることができる。(法第228条第3項)
(エ) 普通地方公共団体の長によって科せられる(法第149条第3号)
(オ) 過料の処分を受ける者に対し、あらかじめその旨を告知するとともに、弁明の機会を与えなければならない(法255条の3第1項)。
 なお、弁明の機会の付与については、行政手続法は適用されないが、行政手続条例に規定があればそれに従い、なければ行政手続法第29条以下に準ずるべき。
(カ) 過料の処分に不服がある者は、都道府県知事がした処分については自治大臣、市町村長がした処分については都道府県知事に審査請求することができる。この場合には異議申立てをすることができる。
(法第255条の3第2項)

2 誘導的手法
  (市民・事業者等の関係者の主体的な協力により目的を達成する手法)
 (1) 経済的インセンティブ
 関係者の協力を引き出すために、協力者に対して何らかの経済的な利益を供与する方法。具体的には、望ましい行為に対して給付する補助金、技術援助、協力に伴う損失補償などがある。なお、補助金や損失補償などの経済的措置には財政的な面から限界がある。
 (2) 表彰制度
 相手に不利益を与える可能性を示すことにより遵守へと向かわせようとする公表制度とは逆に、利益を与える可能性を示すことにより遵守へ向かわせようとする制度。
 なお、地域の市民マインドの状況によっては制度だけが空回りすることが懸念される。
 (3) 活動の公的権威付け
 条例の目的の達成に貢献する活動を行う団体や個人に対して、条例に基づき公的なものとして認定するもの。具体的には、まちづくり条例等において、協議会や協定、さらにはこれらの団体等が策定した計画を条例の規定に基づき公的なものと認定している事例が多い。
 (4) 協 定
 条例で直接に義務を規定するのではなく、公害防止協定、開発協定のように、事業者との間で協定を結び、それにより義務をかけるという手法で、行政が当事者となるものとそうでないものとがある。なお、協定に関わっていない第三者に対する効果が期待できないこと、合意するまでに時間がかかるため、緊急課題に対応できないことなどの限界がある。

※ 参考文献
 A:神奈川県自治総合研究センター「条例の制定と運用」〜実効性確保のための実情調査研究〜
 B:条例政策研究会(編集代表北村喜宣)「行政課題別条例実務の要点」
 C:中原茂樹「条例・規則の実効の確保」(小早川光郎編「地方分権と自治体法務」分権型社会を創る 第4巻)
 D:小早川光郎「行政法 上」
 E:塩野 宏「行政法 T、U」
 F:阿部泰隆「行政法の法システム(下)」
 G:北村喜宣「条例の遵守確保のための手法」(成田頼明編著「都市づくり条例の諸問題」)
 H:礒野弥生「行政上の義務履行確保」(雄川一郎ほか編「現代行政法大系 第2巻」)
 I:北村喜宣「行政指導不服従事実の公表」西谷剛ほか編『政策実現と行政法〔成田頼明先生古稀記念〕』
 J:自治立法研究会編「新時代の条例・規則の考え方・つくり方」
 K:芝池義一「条例」(小早川光郎・小幡純子編「あたらしい地方自治・地方分権」:ジュリスト増刊)
 L:斎藤 誠「自治体立法」の臨界論理〜法治主義・権力分立・地方自治(公法研究第57号)

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