要綱の意義と行政指導・指導要綱

 要綱の意義等
 行政指導と指導要綱
 行政指導(指導要綱)に関する裁判例
 武蔵野市水道法事件判決の概要
 行政手続法の行政指導関係規定

1 要綱の意義等

(1) 要綱の意義
 行政運営に関して「基本的な、又は重要な事柄、又はそれをまとめたもの」の総称(内閣法制局法令用語研究会編「法律用語辞典」(有斐閣,1993年))
(2) 要綱の主な分類
ア 行政を運営していく上で基本的又は重要な内部事務の取扱いについてまとめたもの 内部監察の実施に関する要綱など
イ 補助金等の交付基準や給付事務の取扱いについてまとめたもの 補助金等交付事務取扱要綱など
ウ 規制行政を遂行するに当たって法令の解釈や裁量基準を内部的な規範として定めたもの 規制行政の事務取扱要綱など
エ 規制的な行政指導をするに当たってその内容をまとめたもの=指導要綱 宅地開発指導要綱など
参考文献:小林寿也「これまでの要綱の可能性と限界をどう考えたらいいのか」(木佐茂男編著「自治立法の理論と手法」,ぎょうせい,1998年)

2 行政指導と指導要綱

 (1) 行政指導(指導要綱)が普及・一般化した主な理由
ア 急激な客観情勢の変化から生ずる新しい行政ニーズに対して国の法令に基づく規制では対処できない。
イ 地域住民から寄せられる強い要望に対して地方自治体としては国の法令に根拠規定がない場合も何らかの対応をする必要に迫られた。
ウ 規制手段が非権力的であり、要綱は行政内部で定めることができるため、条例の制定に比べて簡易・迅速な対応が可能であること。
(参考文献:成田頼明編著「都市づくり条例の諸問題」,第一法規,1992年)
 (2) 行政指導(指導要綱)の見直しの背景
ア 行政手続法の制定 ・ 行政指導に関するルールを含む。
・ 自治体の行政手続制度整備の要請
イ 地方分権の推進 ・ 国−自治体−市民の関係のすべての部分における過剰な関与の排除
・ 自治体の条例制定可能性の広がり(機関委任事務制度の廃止等)
・ 自治体の自己決定権の拡大と住民自治の充実の要請
ウ 行政改革の進展 ・ 情報公開法の制定と自治体の情報公開条例整備の要請
 →行政指導の実施、方法、時期、規模等についての説明責任
・ 国におけるパブリック・コメントの制度化(中央省庁等改革基本法)
 →早期の市民参加、政策形成過程の透明化等が、指導要綱策定手続についての考慮事項に。
エ 規制改革の進行 ・ 不要な行政関与・規制の廃止
・ 建築確認等の民間開放(行政指導の機会となっていた国法制度に係る改革)
オ 市民参加の理念の拡大化 ・ 国・自治体の行政活動の準則制定過程への市民参加の仕組みの広がり、計画策定における意見募集、自治体への要請・提案の制度など

参考文献:大橋洋一「これからの行政指導・指導要綱」(小早川光郎編著「地方分権と自治体法務」,ぎょうせい,2000年)

3 行政指導(指導要綱)に関する裁判例

事 件 の 内 容 裁判所名 判決・決定年月日 判 決 ・ 決 定 内 容
負担金に関する行政指導 指導要綱による行政指導 負担金は脅迫により支払ったとしてその返還請求
東京高裁

昭和63年 3月29日 負担金は違法な行政指導によるものではなく、任意の寄付である
建築確認を得るために負担金を支払ったとして損害賠償請求 大阪地裁堺支部 昭和62年 2月25日 建築確認を引き延ばすことを背景に負担金を徴収したことは違法
違法な行政指導によって負担金を支払ったとして損害賠償請求 神戸地裁

昭和63年11月18日 負担金はまったく任意によるものとは言えないが違法とする理由なし
覚書きで約束の負担金を支払わないため建築確認を保留。負担金支払いの責務は存在しない 大阪高裁 平成 1年 5月23日 負担金支払いの覚書きは建築確認以前に締結されてもので強制的に締結されたものではない
負担金は違法な公権力の行使に当たるとして返還請求 最高裁 平成 5年 2月28日 要項に基づく金銭負担を要求した行為が国家賠償請求法にいう違法な公権力の行使に当たる
負担金の一部支払いは受けたが残金の支払いを受けていないとして市が契約金の支払いを請求 最高裁 平成 2年10月29日 順調に協定締結に至ったものである以上負担金は支払うべき
その他 埋蔵文化財のある土地の発掘調査費用を負担させたことに対する損害賠償の請求 東京高裁 昭和60年10月 9日 発掘調査の指示によってある程度の経済的負担を背負っても過大な負担でないかぎり適法
負担金以外の指導要綱による行政指導 要項の承認を得ないで工事を着工、上下水道使用を仮に承認せよ、との仮処分申請 東京地裁八王子支部 昭和50年12月 8日 下水道の使用は承認を認めるものではない。水道の使用は仮に供給せよ
要項の住民同意を得ないまま工事に着手し、住民と紛争。
工事妨害などによる損害賠償
東京高裁 昭和60年 3月26日
市に対する請求は棄却、住民の工事妨害は共同不法行為となる
違法建築物について給水工事申し込みを拒んだことに対する不法行為責任 最高裁 昭和56年 7月16日 違法建築物を是正するよう勧告したもので、違法に給水工事の申し込みを拒んだものではない
指導要綱による行政指導に従わなかったことによるマンションの給水申込拒否 最高裁 平成 元年11月 8日 入居者が確定した段階まで給水を保留したことは適法な職務行為とはいえない
その他の行政指導 住民との紛争回避でトラックの通行認定を保留したことに対する損害賠償 最高裁 昭和57年 4月23日 住民との紛争など秩序維持の保留したことに違法性はない
違反建築物の是正の手段として電気供給の保留を要請したことに対する損害賠償
東京地裁
昭和57年10月 4日 違法建築物の抑制のため、このような措置をとったことは妥当である
マンション建築紛争のため建築確認を保留したことに対する損害賠償 最高裁 昭和60年 7月16日 特別な事情がないかぎり、行政指導を理由とする建築確認の保留は違法
指導要綱制度 要綱による同意に基づくホテルの増築計画に対し、住民が同意の取消を求めた 神戸地裁 昭和60年 3月25日 要綱は法的拘束力を市民に及ぼすものではない。同意をもって法律上の効果は発生しない
要綱を定めたことが将来、開発者として影響がある、としてその無効確認を求めた 神戸地裁 昭和60年10月28日 要綱を定めただけでは具体的な権利義務に関する争いにならない
 出典:天野巡一「政策法務の理論」(「図解地方分権と自治体改革4・政策形成・政策法務・政策評価」)

4 武蔵野市水道法事件判決の概要
  一審判決
(東京地裁八王子支部,昭和58・2・24)
二審判決
(東京高裁,昭和60・8・30)
水道法の「正当の理由」 事業者が給水契約の申し込みを受けたときは、原則としてこれに応じなければならない。水道事業者に給水義務を課すことが水道事業の目的にそぐわない結果をもたらすような特段の事情が認められる場合に例外的に水道事業者が給水契約の申し込みを拒むことを許す趣旨であり、「正当な理由」とはこのような特段の事情が認められる場合をいう 水の供給という水道事業の固有目的のみに基づいて限定的に判断されるべきで、例えば、物理的、技術的に水道付設ないし給水が困難であるとき、申込者の地域が配水管の布設計画のうえで後年次地区であるとき、給水量が著しく不足しているとき等と解すべきで「正当の理由」との解釈、判断については水道事業固有目的以外の要素を安易に混入させるべきではない
指導要綱の法的性格 指導要綱は、市が法令によらずに行政指導することの方針を示したものにすぎず、もともと法的拘束力ないし強制力を有するものでなく、勧告的、任意的なものであって、相手方に任意の協力を要請するにすぎないものである。したがって相手方はこの協力要請に従うか従わないかの選択権を有し、行政指導を受けた相手方がそれに従わないからといってなんらの不利益をこれに与えるような措置を法的に行いうる道理はない。 指導要綱は法律、条例とは異なり相手方の任意の履行を期待する行政指導の方針を示す内部的準則である。一種の慣習法的存在ということであっても、法的確信に裏づけられた真正の慣習法を意味するものではない
指導要綱の住民同意 市が指導要綱に基づきマンション建設に伴う日照被害の解消を図る必要があるとしても限られた土地に多数の人口を抱える大都市の住環境の面からみると住民同意を要件とすることは高層化による広い居住空間確保の道を閉ざし、先住者に優越的利益を与えることとなるので、必ずしも合理性を有するものではない 同意方式は問題のあるところである。しかし同意方式は事業者の専横を抑制する強い作用をもつもので、その欠陥を埋めつつ運用すれば環境保護のためにすぐれた役割を担いえたものであることは否定できない
指導要綱の負担金の寄付 市の人口は指導要綱制定前より横ばいであり、仮に一部地域で人口の急激な増加があったとしても全体での増加がない以上、比較的容易に対処できる。いずれにしても寄付を強要しなければならない事情はない 市の人口の増加はなかったとしてもマンション等の建設により増加が一部地域に集中すれば一部校舎の増築が必須となることは目に見えており、その関係から一定規模以上の建築物の建設について負担金の寄付を要請する合理性、必要性がなかったとはいえない
給水拒否の違法性 指導要綱に定められた住民同意と教育施設負担金の寄付を履行するよう指導し、これが履行されなかったので給水拒否したのであって、行政指導としての許される範囲を超え違法である 指導要綱は適用宜しきを得れば十分有用性をもつもので、住民との紛争調整解決にあたること等が市長の正当な職務行為であり、指導要綱の給水拒否等の実効性担保措置をとることも限度を超えない限り許容される。
業者からの給水申込に対し給水保留をとり続けたことは指導要綱に則った有効適切な措置であって、正当な行政指導、正当な職務行為である。
しかし、その措置が入居者が確定した段階まで進み給水拒否に至った行為はもはや市長としての適法な職務行為とはいえない

 
最高裁決定(平成元年11月8日)
…水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきである。
…また、原判決の認定によると、被告人らは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないY建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業者らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことはゆるされない…。

5 行政手続法の行政指導関係規定

 地方公共団体の機関がする行政指導については、行政手続法の規定は適用されない (法3A)が、地方公共団体はこの法律の趣旨にのっとり、必要な措置を講ずるよう努めなければならない (法38) 。
※ H12.3.31現在の地方公共団体の行政手続条例等の制定状況:3,161団体、98%

 行政指導とは、行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。  (法2六)
○ 行政指導の一般原則
  •  行政指導は、当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならず、及び行政指導の内容は相手方の任意の協力によって実現されるものであることに留意しなければならない。
 (法32(1))
  •  相手側が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
 (法32(2))
○ 申請、許認可等の権限に関連する行政指導
  •  申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導は、申請者が当該申請に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。
 (法33)
  •  許認可等の権限等を有する行政機関は、当該権限を行使できないか又はその意思がない場合に、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。
 (法34)
○ 行政指導の方式
  •  行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなくてはならない。
 (法35(1))
  •  口頭でされた行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を記載した書面の交付を相手方から求められたときは、行政上特段の支障がない限り、これを交付しなければならない。(その場で完了する行為を求めるもの等には適用しない。)
 (法35(2)、(3))
○ 複数の者を対象とする行政指導
 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、これらの行政指導に共通してその内容となるべき事項を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。
 (法36)

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